・・・それは子規氏の特有の原稿用紙(唐紙? に朱罫いっぱいに画いた附近の略地図である。右上に斜に鉄道線路が二本引いてある。鶯横町は右下半に曲線を描いて子規庵は長さ一センチくらいのいびつな長方形でしるされてある。図の左半は比較的込み入っていて、不折・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・しかし用紙を一ぺんしわくちゃにして延ばしておいてかいたらしいあの技術にどれだけ眩惑された結果であるかまだよくわからない。ともかくもこの人の絵にはいつもあたまが働いているだけは確かである。頭のない空疎な絵ばかりの中ではどうしても目に立つ。・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・文化関係で、ラジオの民主化のための放送委員会、軍国主義の出版統制の遺風を民主化するための用紙割当委員会、出版文化委員会、教育の民主化、成人教育のための社会教育委員会、そのほか一九四六年から次の年の春までぐらいにつくられた委員会の多くは、正直・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・そのなかには当然言論出版の官僚統制をもたらす用紙割当事務庁法案があり、ラジオ法案がある。国会の人さえ知らないうちに用意されたこれらの法案は、形式上国会の屋根をくぐっただけで、事実上は官僚の手でこねあげられ、出来上った法律として権力をもってわ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・私にも、このような気持には覚えがある、十二三の頃、父が事ム所のタイプライター用紙を一箱だけ家に持って来たことがある。頁の右肩に英語で肩書や住所などの印刷された、純白で透し模様のあるパリパリした薄い紙はどんなに私を誘惑しただろう。どうか使って・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・ゴロツキ新聞の排除、用紙配給の是正、購読者の要求への即応という掘割をとおって、戦後の小新聞は、民主的な性格のものをふくめて、大企業新聞に吸収された。そして、一九四九年の秋の新聞週間には「新聞のゆくところ自由あり」と、記者たち自身にとってもけ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 二、日本の文化の民主化を口実として、あらゆる機会に文化の官僚統制をもくろんでいる政府は、用紙割当事務庁案を具体化しようとしている。用紙の不足とそれにからむ不正取引摘発を機会に、内閣直属の用紙割当委員会を組織した。一九四六年に用紙割・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 用紙の関係で、再版がおくれた。その二年ちかくに、私たちの現実は実にひどくかわった。生活の困難は益々おびただしく、いまでは国民所得の七割が税になって、不安定も底をついたと云っていいほどだし、六・三制の予算は、僅か七億にきりちぢめられた。・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・出版の自由は用紙不足という現実条件を政治的につかまれて、現在、用紙割当の仕事の実質は内閣に移されている。更に、政府は、用紙割当事務庁をつくり、その長官が用紙割当事務に対して独占の権力をもつようにしようとしている。もちろんこの場合にも文化材で・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
用紙節約から廃刊になるということはさけがたいことながらやはりそれぞれにつながる編輯者のこれ迄の御骨折りや読者の好意について感想を新しくいたします。これ迄の足かけ八年間にこの雑誌のつくして来た文化の上での意義が読者の生活の裡・・・ 宮本百合子 「終刊に寄す」
出典:青空文庫