・・・大阪弁というものは語り物的に饒舌にそのねちねちした特色も発揮するが、やはり瞬間瞬間の感覚的な表現を、その人物の動きと共にとらえた方が、大阪弁らしい感覚が出るのではなかろうか。大阪弁は、独自的に一人で喋っているのを聴いていると案外つまらないが・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ 七 おれの目的、同時にお前の宿願はこうして遂に達せられたわけだが、さて、お前は巨万の金をかかえてどうするかと見ていると、簡単に俗臭紛々たる成金根性を発揮しだした。 上本町に豪壮な邸宅を構えて、一本一万三千円・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・凶暴な人間が血を見ていっそう惨虐性を発揮するように、涙を見ると、私の凶暴性が爆発する。Fの涙は、いつの場合でも私には火の鞭であり、苛責の暴風であった。私の今日の惨めな生活、瘠我慢、生の執着――それが彼の一滴の涙によって、たとえ一瞬間であろう・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・ 中 十二月に入ると急に寒気が増して霜柱は立つ、氷は張る、東京の郊外は突然に冬の特色を発揮して、流行の郊外生活にかぶれて初て郊外に住んだ連中を喫驚さした。然し大庭真蔵は慣れたもので、長靴を穿いて厚い外套を着て平・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・女性としての心霊の美しさがくまなく発揮されるのである。 しかしながら涅槃の境地に直ちに達しられるものではない。それにはいろいろな人生の歩みと、心境の遍歴とを経ねばならぬ。信仰を求めつつ、現在の生活に真面目で、熱心で、正直であれば、次第に・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・劣勢の場合には尻をまくって逃げだすが、優勢だと、図に乗って徹底的な惨虐性を発揮してくる。そういう話が、たった八人の彼等を、おびやかすのだった。本隊を遠く離れると、離れる程、恐怖は強くなって、彼等は、もう、たゞ彼等だけだと感じるようになった。・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・迂濶に聞ていてはいけないよ、真理を発揮してやるから。僕は実に天地の機微を観破したのサ。中々安くない論サ。チンダルから昨日手紙をよこして是非来年は拝聴に上るというのサ。そのくらいの訳だから日本人に分るような浅薄ナ論じゃアない。ダガネ、論をする・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・彼の音信に依れば、古都北京は、まさしく彼の性格にぴったり合った様子で、すぐさま北京の或る大会社に勤め、彼の全能力をあますところなく発揮して東亜永遠の平和確立のため活躍しているという事で、私は彼のそのような誇らしげの音信に接する度毎に、いよい・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ドリスが端倪すべからず、涸渇することのない生活の喜びを持っているのが、こんな時にも発揮せられる。この宴会に来たものは、永くその面白さを忘れずにいて、ポルジイが柄にない、気の利いた事をして、のん気に歓楽を極めているのを羨んだ。 こんな風に・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・しかしこの音響伝播の特性を利用することによって発声映画は異常な能力を発揮することができるのである。たとえば探偵が容疑犯罪者と話しているおりから隣室から土人の女の歌が聞こえて来るのに気がついて耳をそばだてる。歌がやんで後にその女が現われるとす・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫