・・・下山事件は、新しい日本のファシズムが人民の感情を混乱においこみ、だんだんに迷わせて、正当な抵抗の発現をそぐという手段の成功した例です。「進歩」ということは、こんにちの社会情勢について、国際情勢について、もっとも多くの知識をもち、歴史的見・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・人間としての男の精神と感情との発現が実にさまざまの姿をとってゆくように、女の心の姿も実にさまざまであって、それでいいのではないだろうか。真に憤るだけの心の力をもった女は美しいと思う。真に悲しむべきことを悲しめる女のひとは立派と思う。本当にう・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・矛盾そのものの発現としてさえ、恋愛はあらわれ得る。けれども、異性の間の友情は、その輪廓のうちに女は女としての、男は男としてのめいめいの恋愛の経緯までをこめたものとして感じられるのだから、その点でも女同士の友情と性質がひとしい。そして、女が女・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・すべて充実したもの、生粋なるもの、自然力でもそういう発現をする場合、常にどっちかというと単純なような形であらわれ、しかも云いつくされぬ美にみちている。人間も、この美に精神を鼓舞されるには、出来あいの生きかたでは駄目であるから、私はつい自分を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・というものの近代的発展の発現であると主張している。「しかし個人主義時代の『私』と今日の『私』とはちがう。」「今日においては『私』を決定する想念は個人主義的要素をいささかも含んでいないということが一つの特質として認められねばならぬ。」「作者の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・もし、現実の多岐な発現が、過去の文学的教養の枠を溢れているので、そんなものは今日の作家にとって無意味であるというならば、では、それに代る他の教養、真に現実を把握し、現実の変転の真の歴史的契機にふれ得るだけの科学的な教養、政治的な教養を身につ・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・文学は逆に云えば、最も痛烈な人間的生の発現である。 私どもはここで、一つの現実的理解に到達した。文学の発展にはそれにふさわしい社会的な基盤が必要であり、勤労階級の生活の安定の要求は全くぴったりと私たちの人間らしい文化の要求と一体のもので・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・社会に発現するあらゆる事象を、骨の髄までみて、そこに出てくる膿までもたじろがずに見きわめる意味でのデカダニズムからははるかに遠くなってしまった。年齢と経済力とに守られて、若い幾多の才能を殺した戦争の恐怖からある程度遠のいて暮せたこの作家が、・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・彼らの粗暴な無道徳な行為も、因襲の圧迫を恐れない真実の生の冒険心――大胆に生の渦巻に飛び込み、死を賭して生の核実に迫って行く男らしい勇気の発現として私の眼に映った。かくて私は彼らの人格と行為とのすべてに愛着を持ち続けた。 私は私の心を常・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・荘厳なる心霊の発現である。兄弟は一人と死に二人と斃る。愛する同胞の可憐なる瞳より「生命」の光が今消え去らんとする一瞬にも彼らは互いに二間の距離を越えて見かわすのみである。ただ一度かの暖かき手を握りたい、ああ玉の緒の絶え行く前に今一度彼の膝に・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫