・・・ざらざらした白っぽい巌の破片に混って硫黄が道傍で凝固していた。烈しい力で地層を掻きむしられたように、平らな部分、土や草のあるところなど目の届く限り見えず、来た方を振りかえると、左右の丘陵の巓に、僅か数本の躑躅が遅い春の花をつけているばかりだ・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ 千世子は茶っぽい銘仙のぴったり体についた着物を着て白っぽい帯が胸と胴の境を手際よく区切って居る。きつくしめられた帯の上は柔かそうにふくれてズーッとのばして膝の上で組み合わせた手がうす赤い輪廓に色取られて小指のオパアルがつつましく笑んで・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・額の生際の方が少し顔の下の方よりは白っぽい。まだいかにも兵隊帰りの様子をして居て歩くのでも、口の利きかたでも「…………終り」と云いたげな風である。「そうであります。と云うのがいやに耳ざわりに聞えた。辛かった事、面白かった事を・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・お前の眼は何だか白っぽいや」 次に出た空罎にはいろんなボタンがつまっている。サーシャはその三十七箇のボタンをみんな街路で拾ったのであった。第三番目の箱からは、これまた街路で拾った大きな真鍮ピン、長靴にうつ平鋲のちぎれたの、靴やスリッパー・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ が、そう云い終ると同時に、彼の艶のない白っぽい眉毛の生えた額際を我にもあらず薄赧くした。たった一間しかない住居のこと、彼の衣嚢にある一枚の十円札のことなどが、瞬間彼の頭を掠めたのであった。 彼が赧くなると、マダム・ブーキンも一寸上・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ 外からあの白っぽい記念塔めいた陰気な建物を遠望するよりここから眺める内部の方が遙にましな感じである。議席も議長席も傍聴席と同じおだやかな藍灰色の天鵞絨ばりで、下は暗赤色の絨氈がしきつめられている。半円形に並べられている議席はまだ空・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
昨夜、ドッドと降って居た雨が朝になってすっかり上った。 白っぽい被のかかって居た木の葉も土も皆、美くしくうるおおされて、松だの槇だのの葉は針の様に、椿や樫の葉はテラテラに輝いて居る。 きめの細かくなった土面から、ホヤホヤと・・・ 宮本百合子 「南風」
・・・落葉樹の白っぽい、骨のような幹や枝が、この常緑と非常によく釣り合っている。色彩という点から言っても、この枯淡な色の釣り合いが最もよいかもしれない。 これは私には非常な驚きであった。東京では冬の間樹木の姿が目に入らなかったのである。まれに・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫