・・・熱帯の白日に照らされた道路のはるか向こうから兵隊のラッパと太鼓が聞こえて来る。アラビア人の馬方が道のまん中に突っ立った驢馬をひき寄せようとするがなかなかいこじに言うことを聞かない。馬方はとうとう自分ですべって引っくりかえって白いほこりがぱっ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかし最後に絶望して女の邸宅を出て白日の街頭へ出るあたりの感じにはちょっとした俳諧が感ぜられなくはない。まっ白な土と家屋に照りつける熱帯の太陽の絶望的なすさまじさがこの場合にふさわしい雰囲気をかもしているようである。 十七 ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ これらの邦劇映画を見て気のつくことは、第一に芝居の定型にとらわれ過ぎていることである、書き割りを背にして檜舞台を踏んでフートライトを前にして行なって始めて調和すべき演技を不了簡にもそのままに白日のもと大地の上に持ち出すからである。それ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・例の屋根の上に例の仁丹の広告がすすけよごれて見すぼらしく立っていた。白日のもとに見るとあれはいかにも手持ちぶさたな間の抜けたものである。 あらゆる宣伝を手持ちぶさたにする「太陽」のようなものがもし何かあるとしたら、それはどういうものであ・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・そうして、肉桂酒、甘蔗、竹羊羹、そう云ったようなアットラクションと共に南国の白日に照らし出された本町市の人いきれを思い浮べることが出来る。そうしてさらにのぞきや大蛇の見世物を思い出すことが出来る。 三谷の渓間へ虎杖取りに行ったこともあっ・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・ 赤羽のリンク半日の清遊の帰り途に、円タクに揺られているうちにこんな空想が白日の夢のように頭の中をかすめて通ったのであった。 ついでながら、人間のする大概の所業は動物界にもその原型を見出すことが出来るが、ただ「煙」をこしらえてそ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ おもしろいと言えばおもしろいがそれは白日の夢のおもしろさで絵画としてのおもしろみであるかどうか私にはわからない。この人の傾向を徹底させて行くとつまりは何もかいてないカンバスの面がいちばんいい事になりはしないか。 津田青楓。 「黒きマン・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・やっと地上へ出たときに白日の光の有難味を始めて覚えたのである。 高等学校を卒業していよいよ熊本を引上げる前日に保証人や教授方に暇ごいに廻った。その日の暑さも記憶の中に際立って残っているものである。卒倒しそうになると氷屋へはいって休み休み・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・黒天鵞絨のクションのまん中に美しい小さな勲章をのせたのをひもで肩からつり下げそれを胸の前に両手でささげながら白日の下を門から会堂までわずかな距離を歩いた。冬向きにこしらえた一ちょうらのフロックがひどく暑苦しく思われたことを思い出すことができ・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ それが冬だと何事もないが、夏だと白日の下に電燈の点った便所の戸をあけて自分で驚くのである。 習慣が行為の目的を忘れさせるという事の一例になる。 二 雨上がりに錦町河岸を通った。電車線路のすぐ脇の泥濘・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
出典:青空文庫