・・・り、また、今も古ぼけてよごれながら客間の出窓に飾られている石膏のアポロとヴィナスの胸像も、やっぱり高等学校時代の買物で、これを貧乏書生が苦心して買って家へもって帰って来たら、八十何歳かの祖母が、そんな目玉もない真白な化物はうちさいれられねえ・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・ 或女の人相 そのひとはどこが変っているというのではないが 目玉が丸く黒くなったようで 瞼の間にある艷やかさが ぬけてしまっている。寂しく不安なような表情、紅がついている小さい口がよく動き たっぷりした頬に白粉が・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・色鉛筆で、目玉ばかりみたいな人間の顔や、四本足のフラフラしたあやつりの馬にのっかった子供の姿などがある。 ――さあ、子供等これをお客さんに見せてあげなさい。 太い巻物を、一人のピオニェールに、セミョン・ニコラエヴィッチがわたした。・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ ○おへそを デンデン ○ありがとう あなとうとーのみこと ○エプロンに お月と兎ついて居 眼玉が碧い貝ボタン、その眼玉とるぞ とYいう、片手でお月さんをかくし、片手で兎の目玉かくし。あとになってもその手をはなさず「もうとり・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ ――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?ときいた。ワロージャのやつ! 目玉キョロキョロさせてミーチャや女の児の方を見ながら、 ――巻パンが入ってる。と云った。 ――そう、じゃ一寸見せて頂戴。 ワロージャのポケットへ・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・そのカフスに、指の跡をつけないよう、ボタン穴のところをくずさないよう、小さい私は目玉に力を入れてボタンをつけかえる。それを着ると父はカラアをつけるのですが、そのカラアも今思うと、よくあのように堅いものを頸のまわりに立てていたとおどろくような・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ 棚のだるま棚下しひげのおじさん貴方はマア何と云うどえらい御方だろう朝でも晩でも欲の皮つっぱりきったねがいごとそれかなわぬとあたりつけわしに湯水も下さらぬ…… 片っぽ目玉のそめられた 棚のだるまさんの・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・「蛙の目玉」の著者は、あなたでも小僧にかっぱらわれる位抜けたところがあるのが面白いから、この間のとりのお礼にあげます、と書いていられるのであった。 計らず手に入ったこの腕時計を私は重宝し、無事息災に五年間もっていた。たまには手頸につけた・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・ 前にだらりっとさげた布をあげると目玉のない鼻のないものが出てガタガタガタと笑ってはひしひと男にせまって来た。 その呪われたものの様な影の次にはまっしろな雪がキラキラ闇の中に光って居る。 あくんで居る男の足はいてついた様になって・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・でも己は不動の目玉は焼かねえ。ぽつぽつ遣って行くのだ。里芋を選り分けるような工合に遣って行くのだ。兄きなんぞの前へ里芋の泥だらけな奴なんぞを出そうもんなら、かます籠め百姓の面へ敲き附けちまうだろうよ。」「己は化学者になって好かったよ。化・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫