・・・はやわらかいクレパスで、暖かい色調の紅い線で描かれた人生の歴史的時機のクロッキーとも云える作品である。省略され、ときには素早い現実の動きをおっかけた飛躍のあるタッチで、重吉とひろ子という一組の夫婦が、一九四五年の日本の秋から冬にかけてのめを・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 今日、産めよ、殖えよということにつれて優生結婚がいわれているとき、そこに達する過程として互の愛や理解のことが知らず知らずのうちに省略されているのは、目前の必要が性急であるのとともに、やはり日本の旧い習慣の影響だと思う。今日の空気のうち・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・日本の美の一つの要素である省略の趣向は、どのような生活感情からのつながりとして現われているのかと外から見て行かず、それが日本人の直感的な性質であるからと結論で示されてゆく傾きがあった。しかし近代日本の精神は一般に、より科学的に高まっているか・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・第一回全連邦作家大会の報告が、部分部分のやむを得ぬ省略を伴いながらも一冊の本となって既に現われている現在、総ての人の目に、このことは紛れのない実際の到達点として映っているのである。 大きい過去の作家らしく、大きい矛盾に充ちたオノレ・ド・・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・このわかりにくい程気をつかったいいまわしや、省略にもかかわらず、これが文芸に発表されたときは、ほんの小さい箇所が幾所か要心深くふせられた。 編輯者の好意で、伏字なしのゲラが保存されていたことはほんとに嬉しかった。それによってここにおさめ・・・ 宮本百合子 「「広場」について」
・・・において、主題の継承化のために必要な文章とは全く本質において違う文脈に属する文章の俳句風な含蓄、語らずして推察させようとする省略法の誤った使用などによって、知らず知らず煩わされていることを強く感じるのである。 島木健作氏の諸作を読んで、・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・作者の心からなる同感と愛情をよびさましたそのテーマに沿って題材を整理してゆくとき、ワシリェフスカヤは、過去の文学における文学的な省略法、テーマの進展のモメントとなる各細部を、印象的に整理してゆく方法だけに頼らず、もっと深く本質にふれて、占領・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・彼らは幻視し得ない点を省略して、ただ明らかに幻想し得る点のみを描くという巧妙な手法を心得ているのである。これは恐らく二千年の歴史を持った東洋画の伝統がしからしめるところであって、この特長を活用するところに日本画家の誇りも存するのであろう。洋・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・を造る事が画の目的であるならば、思い切った省略もまた一法である。自分の問題にするのはそれではなくて、むしろ画家の対象に対する態度にある。小林氏は農村の風物を写生したかもしれない。しかし氏の描くところは、農村の風物によって起こされた氏自身の情・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・デュウゼは演劇を暗示と神秘と芸術的省略とに充ちた複雑な精神的な芸術となしたのだ。 エレオノラ・デュウゼのことば。――演劇を今日の堕落から救うには、劇場を皆こわしてしまい、役者を皆殺してしまうよりほかに仕方がありますまい。――・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫