・・・東京から、その家の持ち主の妻や子供達や、従兄従妹などという活発な眷属がなだれ込んで来て部屋部屋を満した。永い眠りから醒まされて、夏の朝夕一しお黒い柱の艶を増すような家の間で、華やかな食慾の競技会がある。稚い恋も行われる。色彩ある生活の背景と・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・それにもかかわらず、右翼日和見主義者とその眷族調停派たちは、自身の誤謬を固執し、作家同盟の一部の同志は、同志小林の指導的批判に対していささかも科学的根拠のないデマゴギー的漫罵をわめきたてさえしたのである。 同志小林の克己と努力とは遂にそ・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・護送の役をする同心は、そばでそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族の悲惨な境遇を細かに知ることができた。所詮町奉行の白州で、表向きの口供を聞いたり、役所の机の上で、口書を読んだりする役人の夢にもうかがうことのできぬ境遇である。 同心を勤める・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫