・・・二人はまたしばらくの間、正眼の睨み合いを続けて居りました。すると今度は数馬から多門の小手へしかけました。多門はその竹刀を払いざまに、数馬の小手へはいりました。この多門の取った小手は数馬の取ったのに比べますと、弱かったようでございまする。少く・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・そしてこの睨み合いが苦しいのだ。こうした長尻の客との対坐は、僕にとってまさしく拷問の呵責である。 しかし僕の孤独癖は、最近になってよほど明るく変化して来た。第一に身体が昔より丈夫になり、神経が少し図太く鈍って来た。青年時代に、僕をひどく・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・彼等は互に睨み合いながら、獣のように起き上った。みのえは、後じさりにそろそろ上の坂の方へ出ながら、組打ちした場所と思わしい辺をちょいちょい見た。リボンで帯につけていたエァーシャープを彼女は振り廻したのであったがそれが環のところかられてどこへ・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・ いわば反動青年団と、デモンストレーションとの睨み合いだ。数から云っても広場の中に到着しているだけのデモはとても反動団の太いステッキには勝てそうもない。 わたしは今、この時刻に、モスクワの全市を赤旗と音楽と飛行機の分列式とでおおいな・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫