・・・それは犬殺しが何処かで赤犬の肉を註文されて狙いをつけたのだから屹度殺してやるとそこらで放言して行ったということを知らせる為めであった。文造は心底から大事と思って知らせたのであったが然し此は知らなかった方が却て太十にも犬にも幸であったのである・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・「それ御覧遊ばせ、やっぱり虫が知らせるので御座います」「婆さん虫が知らせるなんて事が本当にあるものかな、御前そんな経験をした事があるのかい」「あるだんじゃ御座いません。昔しから人が烏鳴きが悪いとか何とか善く申すじゃ御座いませんか・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ ――必要を知らせてやろう。 ――覚えてろ! ――忘れろったって忘られるかい。鯰野郎! 出直せ! ――…… 私は顔中を眼にして、彼奴を睨んだ。 看守長は慌てて出て行った。 私は足を出したまま、上体を仰向けに投げ出・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・「平田さんが今おいでなさッたから、お梅どんをじきに知らせて上げたんだよ」「そう。ありがとう。気休めだともッたら、西宮さんは実があるよ」「早く奥へおいでな」と、小万は懐紙で鉄瓶の下を煽いでいる。 吉里は燭台煌々たる上の間を眩し・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・日本の女子に権力なしと言う其原因は様々なれども、女子が家に在るとき父母の教その宜しきを得ず、文字遊芸などは稽古させても経済の事をば教えもせず、言い聞かせもせず、態と知らせぬように育てたる其報は、女子をして家の経済に迂闊ならしめ、生涯夢中の不・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・そこでぼくはみんなに知らせた。何だか手を気を付けの姿勢で水を出たり入ったりしているようで滑稽だ。先生も何だかわからなかったようだが漁師の頭らしい洋服を着た肥った人がああいるかですと云った。あんまりみんな甲板のこっち側へばかり来たものだか・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・日本のプロレタリア文学運動が、社会と文学についてのその真実をわたしに知らせたのであった。「日は輝けり」は一九一七年一月に発表された。大都会のゴタゴタのなかで、生活と闘いながら自分を成長させようとしている一人の青年を中心に、一つの家族を描・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・この中には嫡子光貞のように江戸にいたり、また京都、そのほか遠国にいる人だちもあるが、それがのちに知らせを受けて歎いたのと違って、熊本の館にいた限りの人だちの歎きは、わけて痛切なものであった。江戸への注進には六島少吉、津田六左衛門の二人が立っ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ところがその心持を女房に知らせたくないので、女房をどなり附けた。「あたりめえよ。銭がありゃあ皆手めえが無駄遣いをしてしまうのだ。ずべら女めが。」 小さい女房はツァウォツキイの顔をじっと見ていたが、目のうちに涙が涌いて来た。 ツァ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「ちぇイ主を……主たちを……ああ忍藻が心苦しめたも、虫…虫が知らせたか。大聖威怒王も、ちぇイ日ごろの信心を……おのれ……こはこは平太の刀禰、などその時に馳せついて助…助太刀してはたもらんだぞ」 怨みがましく言いながら、なおすぐにその・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫