・・・則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものではない。だから一向反対宣伝も要らなければこの軽業テントの中に入って異教席というこの光栄ある場所に私が数時間窮屈をする必要もない。然しながら実は私は六月から・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・の主人公は時代が推移して明治が来るとともに没落せざるを得なかった宿場本陣の主、精神的には本居宣長の思想の破産によって悲劇的終焉を遂げざるを得なかった男である。作者藤村氏が、抒情的な粘着力をもって縷々切々と、この主人公とそれをめぐる一団の人々・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・互に、夫は妻を強度のヒステリーと呼び、妻はその夫を性格破産者類似のものとして公表するような今日の増田氏の夫婦関係は、果して二十八年前、健全な結合におかれてあったのであろうか。今日富美子という人の行動に対して加えられるべき社会的批判があるとす・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 其に比べれば、良人の受けた結果は、そういう性質を知らずに結婚した不明と、その策略を感じなかった事を賢くないとしても尚、この真の意味に於ける破産は、比較にならない程潔いものではございますまいか? 私は、食べられなければガツガツし、自・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・私たち総てが、この数年来経つつある酸苦と犠牲とを、新しい歴史の展開の前夜に起った大なる破産として理解し、同時にそれは生き抜くに価する苦難として照し出してゆく力こそ、悲劇においてなお高貴であり、人間らしい慰めと励ましとにみちている文学精神の本・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・父が破産するに及んで月給取りになった久内は、こうもつぶやいている。「むかし自分の頭を占めて離れなかった雑多な思想を思い浮べてみることもあったが、それらはことごとくからまり合った一連の網となって、頭上はるかな高い海面でただ揺れ動いているかのよ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 俺もよく破産しなかったものだ。ヴィンダー 滅多なことには驚かない俺も、あの時許りは目を瞠った。人間共に未来を見せず、奴等の悦ぶ思弁にこじつけてさも世界を救う大思想のように思わせ思わせ野心と所有の慾望を徐ろ徐ろ植える手際には、俺も参った・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・「今年の暮に機屋一家は破産しそうである。それはお蝶が親の詞に背いた為めである。お蝶が死んだら、債権者も過酷な手段は取るまい。佐野も東京には出て見たが、神経衰弱の為めに、学業の成績は面白くなく、それに親戚から長く学費を給してくれる見込みもない・・・ 森鴎外 「心中」
・・・世間にはもう飾磨屋の破産を云々するものもある。豪遊の名を一時に擅にしてから、もうだいぶ久しくなるのだから、内証は或はそうなっているかも知れない。それでいて、こんな催しをするのは、彼が忽ち富豪の主人になって、人を凌ぎ世に傲った前生活の惰力では・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ここで自然科学崇拝の傾向を破産しなければならぬ。この気分の変化は少なくとも人生をまじめに考える人々の間では、十分強く経験せられたように見える。文芸復興期以来しきりに重ねられて来た人間の妄想が再びまた「人道主義」の情熱によって打ち砕かれるので・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫