・・・すると人はきっと何かしら神秘的な因果応報の作用を想像して祈祷や厄払いの他力にすがろうとする。国土に災禍の続起する場合にも同様である。しかし統計に関する数理から考えてみると、一家なり一国なりにある年は災禍が重畳しまた他の年には全く無事な回り合・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・同時にいたずら好きの天分をも発揮して、ガス管内に空気を押し込み、先生の祈祷が始まると燈火が自然に消えるという趣向を案出し実行した。その頃彼の父は彼に農業の趣味を養うために郷里で豚を飼わせ、その収入を彼の小使銭に充てた。この銭は多くは化学材料・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・それには表に ビジテリアン大祭次第挙祭挨拶論難反駁祭歌合唱祈祷閉式挨拶会食会員紹介余興 以上と刷ってあり私たちがそれを受け取った時丁度九時五分前でした。 式場の中はぎっしりでした。そ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・せまい陰気な雨の境内は人ごみで雑踏し、賽銭をなげる音がし、祈祷の声がする。切ない心で諸国から集ったこれらの人々が、みんなあの幾百段をのぼって来ている。信仰の勿体なさを深くするため、印象づけるため、すべての流行する信仰建築は、きっとこういう途・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・米国婦人が、不用な奢侈品に良人の体中の油汗を搾らせながら、祈祷の文句を誦し、人道の為に、彼女等が殆ど一人として云わない事はない Humanity の為に是非を喧しくするのが一種の常套であると共に、日本の現代の常套は女性の経済的独立と称し、職・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 一体にアイヌは信心深く、山に行って猟をする時も畑を作る時も、地面を掘る時も、先ずイナオを立てて私共に飲水をお与え下さいとか穀物のよく実るようにとか云って、熱心に祈祷をいたします。けれども、イナオを取扱ったり祈祷をするのは、総べて男子の・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・ 早速かえって、祈祷書の翻訳にとりかかった。又ズク麿さんをとなりにかけさせ、自分訳す、ズク麿さん歎文的日本語になおす。 十日働き、その翻訳もすみ、独り部屋でロシアへ報告書を書いた。終ってペンをおき傍のディァンに横った。それきり。看護・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 実際彼はそのころ祈祷の明暮れを送って居たのである。 其の日は大変天気が好かった。 多分十月の末であったと思うが、高々と澄み渡った空の下に木々の葉が皆金色に踊って居る様な日和であった。 私は叔父に連れられて家を出かけた。・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・十二月七日。祈祷。」 次にわたくしは芥川氏に聞いた二三の雑事をしるして置く。香以の氏細木は、正しくは「さいき」と訓むのだそうである。しかし「ほそき」と呼ぶ人も多いので、細木氏自らも「ほそき」と称したことがあるそうである。 芥川氏は香・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・見る間に不動明王の前に燈明が点き、たちまち祈祷の声が起る。おおしく見えたがさすがは婦人,母は今さら途方にくれた。「なまじいに心せぬ体でなぐさめたのがおれの脱落よ。さてもあのまま鎌倉までもしは追うて出で行いたか。いかに武芸をひとわたりは心得た・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫