・・・ 夜前、神明町辺の博士の家とかに強盗が入ったのがつかまった。看守と雑役とが途切れ、途切れそのことについて話すのを、留置場じゅうが聞いている。二つの監房に二十何人かの男が詰っているがそれらはスリ、かっぱらい、無銭飲食、詐欺、ゆすりなどが主・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ そういう時期に、都電が故障した偶然から、神明町のわきの本屋へ入った。何心なく見まわしていたら、「春桃」中国文学研究会編という一冊が目にとまった。 その赤い文字の「春桃」という題を特別な気持で見たのには、いわれがあった。ざっと一ヵ月・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・と答えると同時に、久保田はこれから生涯勉強しようと、神明に誓ったような心持がしたのである。 久保田は花子を紹介した。ロダンは花子の小さい、締まった体を、無恰好に結った高島田の巓から、白足袋に千代田草履を穿いた足の尖まで、一目に領略するよ・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫