・・・ギリシア神話にある「金毛羊」の物語にしろ、メーテルリンクの「青い鳥」をもとめて旅立ったチルチル、ミチルの物語にしろ、求めるものは幸福であるという人間性を象徴した物語ではないか。だもの、きょうの私たちの心から、どうして「青い鳥」の幻が消えてい・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・は『改造』の「神話」よりずっとテーマとして高い複雑な人間交渉のモメントが捉えられているのだが、ここでも作者は息子の荘太郎は従において、代官神川平助を中心においている。神川平助の性格でもあるのだが、年齢が語る幾歳月の生活感情の習慣が、代官神川・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・しく子爵の所へ知らせてよこしたが、その中にはイタリア復興時代だとか、宗教革新の起原だとか云うような、歴史その物の講義と、史的研究の原理と云うような、抽象的な史学の講義とがあるかと思うと、民族心理学やら神話成立やらがある。プラグマチスムスの哲・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・この北国神話の中の神のような人物は、宇宙の問題に思を潜めている。それでも稀には、あの荊の輪飾の下の扁額に目を注ぐことがあるだろう。そしてあの世棄人も、遠い、微かな夢のように、人世とか、喜怒哀楽とか、得喪利害とか云うものを思い浮べるだろう。し・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・その中には寺社の縁起物語の類が多く、題材は日本の神話伝説、仏典の説話、民間説話など多方面で、その構想力も実に奔放自在である。それらは、そういう寺社を教養の中心としていた民衆の心情を、最も直接に反映したものとして取り扱ってよいであろう。民俗学・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・しかし皇室の権威はただ現実的な根拠からのみ出るのではない。神話時代には天皇は、宇宙の主宰者たる天照大神の代表者であった。天照大神は信仰の対象であって現実的に経験のできるものでない。それは理論的に言えば一切のものの根源たる一つの理念である。こ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・その神話的な、象徴化の多い表現に親しむとともに、それを具体化した仏像仏画にも接した。私は彼らの心臓の鼓動を聞くように思う。――彼らが朝夕その偶像の前に合掌する時、あるいは偶像の前を回りながら讃頌の詩経を誦する時、彼らの感激は一般の参詣者より・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・が、たとい稚拙であるにもしろ、その想像力が、一方でわが国の古い神話や建国伝説などを形成しつつあった時に、他方ではこの埴輪の人物や動物や鳥などを作っていたのである。言葉による物語と、形象による表現とは、かなり異なってもいるが、しかしそれが同じ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・伎楽面がいかに神話的空想的な顔面を作っても、そこに現わされているものはいつも「人」である。たとい口が喙になっていても、我々はそこに人らしい表情を強く感ずる。しかるに能面の鬼は顔面から一切の人らしさを消し去ったものである。これもまた凄さを具象・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
・・・この波紋が伝説となり神話となり口碑となっていつまでも残る。生命の執着はさらに形を変じ姿を化して日常生活に刻々現われている。勇気といい剛毅というもすべてこの執着を離れたる現象である。肉体! 肉体の存在が何である。物質の執着は霊の権威を無視し肉・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫