・・・田舎のどこの小さな町でも、商人は店先で算盤を弾きながら、終日白っぽい往来を見て暮しているし、官吏は役所の中で煙草を吸い、昼飯の菜のことなど考えながら、来る日も来る日も同じように、味気ない単調な日を暮しながら、次第に年老いて行く人生を眺めてい・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 金庫だの箪笥だのを、ズラリと嵌め込みにした壁際に、帳面だの算盤だのをたくさん積み重ねた大机を引きつけて、男のような、といっても普通の男よりもっとバサバサした顔や声を持ったおばあさんが、ムンズという形容がおかしいほど適した形をして座って・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・しかし、当時の婦人の文化的な能力は、日常の帖つけ、手紙をかくに不自由しない読み書き算盤の低い範囲に止められていたから、その複雑な時代に生きる自分たち女性自身の描き手としての婦人作家は、一人も出ていない。武家時代から徳川の全時代を通じて、日本・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫