・・・小さな門を中に入らなくとも、路から庭や座敷がすっかり見えて、篠竹の五、六本生えている下に、沈丁花の小さいのが二、三株咲いているが、そのそばには鉢植えの花ものが五つ六つだらしなく並べられてある。細君らしい二十五、六の女がかいがいしく襷掛けにな・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・白い柔らかい鶏の羽毛を拇指の頭ぐらいの大きさに束ねてそれに細い篠竹の軸をつけたもので、軸の両端にちょっとした漆の輪がかいてあったような気がする。七夕祭りの祭壇に麻や口紅の小皿といっしょにこのおはぐろ筆を添えて織女にささげたという記憶もある。・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 八つになる弟が強請んで種を下してもらった□□(はやって置いた篠竹では足りなかったものと見えて、後の槇の梢まで這い上って、細い葉の間々に肉のうすい、なよなよした花が見えて居る。 槇と云う名からして中年の寛容な父親を思わせる様なのに、・・・ 宮本百合子 「後庭」
出典:青空文庫