・・・そのおのおのの点から平均m本の線を引いて他のm個の点に結ぶ。そうすると合計nかけるのm本の線が空間に複雑なる網を織りだす。仮にnが一千万、mが百とすると十億本の線が空間に入乱れる。これらの線が一度はどこかの郵便局へ束になって集められ、そこで・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・ 狂言稗史の作者しばしば男女奇縁を結ぶの仲立に夕立を降らしむ。清元浄瑠璃の文句にまた一しきり降る雨に仲を結ぶの神鳴や互にいだき大川の深き契ぞかわしけるとは、その名も夕立と皆人の知るところ。常磐津浄瑠璃に二代目治助が作とやら鉢の木を夕立の・・・ 永井荷風 「夕立」
・・・ゆえに今この問題に付ては、人にしてこの明識を有すると有せざるとの原因はいかん、これを養うの方法はいかにして可ならんとて、その原因を尋ね、その方法を求めて、はじめて議論の局を結ぶべきなり。 およそ物の有害無害を知らんとするには、まずその性・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ 男女両性の関係は至大至重のものにして、夫婦同室の約束を結ぶときは、これを人の大倫と称し、社会百福の基、また百不幸の源たるの理由は、前に陳べたる所を以て既に明白なりとして、さて古今世界の実際において、両性のいずれかこの関係を等閑にして大・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・書中乾胡蝶からになる蝶には大和魂を招きよすべきすべもあらじかし 結句字余りのところ『万葉』を学びたれど勢抜けて一首を結ぶに力弱し。『万葉』の「うれむぞこれが生返るべき」などいえるに比すれば句勢に霄壌の差あり。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・又犬の胃液の分泌や何かの工合を見るには犬の胸を切って胃の後部を露出して幽門の所を腸と離してゴム管に結ぶそして食物をやる、どうです犬は食べると思いますか食べないと思いますか。あっ、どうかしましたか。」 実際どうかしたのでした。あんまり話が・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・長い間の変らない親切は、いつか、真個にいつかか分りませんが、いつかきっとよい果を結ぶものです。どんな力でも打壊す事は出来ません。友子さんが幾ら我を張っても、とうとうお終いに勝ったのは、芳子さんの親切、よい心掛でした。 二年目の終業式がす・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・朝日をうけ、軽らかな息を吸いつつ此処に立って髪を結ぶ私の嬉しさ。机に居ても 空は見え畳に座しても大どかな海の円みと砂のかおりが頬のあたりに そっと忍びよって来るああ、新しい部屋のうち新らしい人生へ・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・予はこの文の局を結ぶに当って、今の文壇の諸家が地方新聞を読むや否やは知らぬながら、遥に諸家に寄語する。諸家は予などと違って、皆春秋に富んで居られるではないか。今より後に、諸家はどうぞ奮って、予が如き門外漢までを、大に動かすような作と評とを出・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ 四十に近づいて急に美しい花を開き豊かな果実を結ぶ人がある。下に食い入る事に没頭していたからである。 私の知人にも理解のいい頭と、感激の強い心臓と、よく立つ筆とを持ちながら、まるで労作を発表しようとしない人がある。彼は今生きることの・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫