・・・芥川龍之介は、それらのテーマを何故、殊更絵巻風の色調に「地獄変」として書かなければならず、侘びの加った晩年の馬琴の述懐として行燈とともに描き出されなければならなかったのだろうか。 芥川龍之介という作家は、都会人的な複雑な自身の環境から、・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・もなかなか豊かな動物と人間の絵巻をひろげている。ハドソンの「ラプラタの博物学者」は、野生鳥類の生彩に溢れた観察、記述で感銘ふかいものである。「日本の鳥」は中西悟堂氏によって、どのような日本独特の鳥とそれに対する心を描いているのだろうか。・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ それ等の工夫にかかわらず、系譜的と云われる作品が、とかく生活の生々しい絵巻というより楽な過ぎこし方の物語となるのは何故だろう。今日それが自然発生的にさえ多く書かれる何かとりつきやすさがあるらしいのは、どういうわけだろう。『文芸』の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 数冊の本の中に、安成二郎氏の恋の絵巻という本がある。その表題に一寸母上が何故其を送ってよこされたかが疑われた、が、目次を見て、其中に自分の事が書いてあるらしいので、送られた理由が分った。 読んで見ると、好意のある文句で、自分の未来・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・そういうところを眺めていると、過去の世紀の権力の表現方法やその様式というものが、絵巻のようにまざまざと甦って来て、あくどい思いがする。 いろんな国の品物のいろいろな面白さのよろこびで一つ二つのものが、家のあちこちにひょい、ひょいとあるの・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・ 島野 古の物語、絵巻にありそうに貧相でプルルルとしたしなび鼻、うすい髭、うすい卑屈な唇、「――でございます」という。○竹の島人 大きな酒やけのした鼻、光った、鋭く動そうとする眼。古い記者生活時代のくせで、人を呼びすてに話し、野・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・「何ねー、 今して居る仕事の片が附いたら極く新らしい気持で昔の物語りの絵巻を作って見ようと思って。 気に入ったのが見つからないんだもの。 ほんとうに何がいいかしらん。 京子はほんとうにたずねあぐんだ様に云った。・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・けれども、彼が芸術として俳諧に求めたのは、西鶴のような現象を追うばかりの浮世絵巻としてではない俳諧、門左衛門のように己とひとを涙にとかす悲劇に我から没入せず、何かより勁い人間精神の高揚によって社会悲劇をも克服した芸術としての俳諧、そういうも・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・過去の歴史の絵巻が示しているとおり文明があるところまで来てその文明の故にかえって文化を低めるようになる場合、文化の創造力というものは、常にもっとも多難な道を辿るものである。そして、その過程で婦人が負うてゆく文化性というものは、その国の社会の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・第一、絵巻を見ても分るように、庶民の女は髪を藁わらしべや紙で結え、染色を使わない着物を着て、殆んど裸足で働いて暮した。そして京都の辻には行倒れが絶えず、女乞食が宮廷の庭へまで入って来るような極端な貧しさの中で文盲であった。紫式部達が物語を書・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫