・・・ 緒方サンニハ、子供サンガアッタネ。 秋ニナルト、肌ガカワイテ、ナツカシイワネ。 飛行機ハ、秋ガ一バンイイノデスヨ。 これもなんだか意味がよくわからぬが、秋の会話を盗み聞きして、そのまま書きとめて置いたものらしい。 また・・・ 太宰治 「ア、秋」
緒方氏の臨終は決して平和なものではなかったと聞いている。歯ぎしりして死んでいったと聞いている。私と緒方氏とは、ほんの二三度話合っただけの間柄ではあるが、よい小説家を、懸命に努力した人間を、よほどの不幸の場所に置いたまま、そ・・・ 太宰治 「緒方氏を殺した者」
・・・その縦横のクリークにはドンコがたくさんいるので、私はよく柳川でドンコ釣りをしたが、緒方一三さんというドンコ通がいて、ドンコの頬ペタのフクラミの肉は、どんな魚の味よりもおいしい、その頬のサシミを手のひらに一杯食べたら死んでもよいなどと笑って話・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・その後、大槻玄沢、宇田川槐園等継起し、降りて天保弘化の際にいたり、宇田川榛斎父子、坪井信道、箕作阮甫、杉田成卿兄弟および緒方洪庵等、接踵輩出せり。この際や読書訳文の法、ようやく開け、諸家翻訳の書、陸続、世に出ずるといえども、おおむね和蘭の医・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・あれを建てた緒方某は千住の旧家で、徳川将軍が鷹狩の時、千住で小休みをする度毎に、緒方の家が御用を承わることに極まっていた。花房の父があの家をがらくたと一しょに買い取った時、天井裏から長さ三尺ばかりの細長い箱が出た。蓋に御鋪物と書いてある。御・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫