・・・……あんたは御縁辺であらっしゃるかの。」「お上人様。」 裾冷く、鼻じろんだ顔を上げて、「――母の父母、兄などが、こちらにお世話になっております。」「おお、」と片足、胸とともに引いて、見直して、「これは樹島の御子息かい。―・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・すると少女は身体の具合が少し悪いと言って鬱いで、奥の間に独、つくねんと座っていましたが、低い声で唱歌をやっているのを僕は縁辺に腰をかけたまま聴いていました。『お栄さん僕はそんな声を聴かされると何だか哀れっぽくなって堪りません』と思わず口・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 三 縁辺に席を与えて、まず麦湯一杯、それから一曲を所望した。自分は尺八のことにはまるで素人であるから、彼が吹くその曲の善し悪し、彼の技の巧拙はわからないけれども、心をこめて吹くその音色の脈々としてわれに迫る時、われ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 真蔵は銘仙の褞袍の上へ兵古帯を巻きつけたまま日射の可い自分の書斎に寝転んで新聞を読んでいたがお午時前になると退屈になり、書斎を出て縁辺をぶらぶら歩いていると「兄様」と障子越しにお清が声をかけた。「何です」「おホホホホ『何で・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように拡がっている。莟んでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように捲き縮んでいてなかなか思うよ・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように広がっている。つぼんでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように巻き縮んでいてなかなか思う・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・はまた冠の縁や楽器の縁辺でもある。海の縁でもあるから、頭と比較するのは無理かもしれない。しかし「上」は「ほとり」と訓まれることがあるのである。「かうべ」の群中へ、かりに「神」と「上」も「髪」も入れておく。 朝鮮語「モーリ」は「つむり・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・また大陸塊の縁辺のちぎれの上に乗っかって前には深い海溝を控えているおかげで、地震や火山の多いことはまず世界じゅうの大概の地方にひけは取らないつもりである。その上に、冬のモンスーンは火事をあおり、春の不連続線は山火事をたきつけ、夏の山水美はま・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ ついでながら、切り立ての鋏穴の縁辺は截然として角立っているが、揉んで拡がった穴の周囲は毛端立ってぼやけあるいは捲くれて、多少の手垢や脂汗に汚れている。それでも多くの場合に原形の跡形だけは止めている。それでもしこのように揉んだ痕跡があっ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうしてやはり琺瑯引きでとっ手のついた大きい筒形のコップをそのわきに並べて置き、そうしてコップの円筒面を鉢の縁辺に軽く接触させる。そうして顔を洗うために鉢の水が動揺すると、この水の定常振動と同じ週期で一種の楽音を発することがしばしばある。そ・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
出典:青空文庫