・・・屋の者にまるっきり黙ってゆく訳にゆかず、今宵こそ幸衛門にもお絹お常にも大略話して止めても止まらぬ覚悟を見せん、運悪く流れ弾に中るか病気にでもなるならば帰らぬ旅の見納めと悲しいことまで考えて、せめてもの置土産にといろいろ工夫したあげく櫛二枚を・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・それから引続いて『五人女』『一代女』『一代男』次に『武道伝来記』『武家義理物語』『置土産』という順序で、ごくざっと一と通りは読んでしまった。読んで行くうちに自分の一番強く感じたことは、西鶴が物事を見る眼にはどこか科学者の自然を見る眼と共通な・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ヴィンダー 俺は、当分何も手につかない戦々兢々、なかなか効果は偉大な、絶望、その従弟のもっと可愛い自暴自棄を置土産にする。カラ それなら私は――執念深い思い出。忘れようとして忘られず、思い起して死んだ者、先った物の為に流す涙、溜息は・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・片手には大きな番傘を持ち、左の手は袖の口に入れて、袖口の処を一寸指先だけで内側にまげ肱を張って調子を取り、一足歩いては雪を下駄の歯から落し、又一足行っては置土産をし、来たあとを振りかえるとズーッと向うの曲り角から今自分の立って居る処まで、歯・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫