・・・たべ物は美味しいかい。」「ありがとうございます。大へんに結構でございます。」「そうかい。それはいいね、ところで実は今日はお前と、内内相談に来たのだがね、どうだ頭ははっきりかい。」「はあ。」豚は声がかすれてしまう。「実はね、こ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・「へえ、どうせ美味しいものは出来ませんですが、致して見ましょう」「賄ともで幾何です?」 神さんは「さあ」と躊躇した。「生憎ただ今爺が御邸へまいっていてはっきり分りませんが――賄は一々指図していただくことにしませんと…・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・「本当に美味しいや」「本当とも」 一太は、「もういい? もう返してよござんすか」と云いながら焙り出した。「こんどのおっかちゃんに上げようね」 一太の母は、陰気に気落ちのした風でそっちへ目をやりながら、「いいよ・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・その声よりも稚い国民学校の子供たち、絵本のほしい子供たち、その子たちはアメリカの子供がたべても美味しいミカン、という奇妙な唱歌をうたって、アメリカから送られたきれいな本を三越の展覧会でごらんなさい、と教えられている。国民学校や中等学校は教科・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・「――これ美味しいわね、どこの」「河村のんどっせ」 章子と東京の袋物の話など始めた女将の、大柄ななりに干からびたような反歯の顔を見ているうちに、ひろ子は或ることから一種のユーモアを感じおかしくなって来た。彼女はその感情をかくして・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・うちの近所に美味しい餅屋があるので、林町の父のために、さっきお餅を注文したところ。庭が五坪ばかりあって、椿の蕾がふくらんで、赤い山茶花が今咲いています。その一枝をとって来て、例によって机の上におき、それを眺めて眼をやすませながら、これからバ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ きっと、これをたべながらのむと美味しいかもしれない」と、お芋のおでんをとってやった。 おでんのお芋は、黒芋で、大半黒くなっていた。「じゃかえりましょうか」 又提灯に灯を入れてその店から雨の往来に出た。商人は今日もやはりあく・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・「一つのんで御覧なさい」「――酸っぱい?」「飲んで御覧」 私は、彼女のしたとおりコップに調合し、始め一口、そっとなめた。それから、ちびちび飲み、やがて喉一杯に飲んで、白状した。「美味しいわ、これは案外」 嫌いな私が先・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・彼女は昼の残りの肉を ナイフでたたき乍ら――この肉上げましょうか、食べたくなる程美味しい肉ですよ 全くさ それでも三週間キャベジの煮たのだけたべてやっと百グラムの牛肉が食べられるようになったのだから、彼女はその肉も結局は食べ終る。・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ 私きっと美味しいパンとチイズをあげるわ。旅人を中にはさんで三人の子供は歩き出す。そして順番にやわらかく、民謡の様な左の文句を口ずさむ。雪の降る日に小兎は、あかい木の実のたべたさに親の寝た間に山を出で城の・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
出典:青空文庫