・・・ すべての迷信は信仰以上に執着性を有するものであるとおり、この迷信も群集心理の機微に触れている。すべての時代を通じて、人はこの迷信によってわずかに二つの道というディレンマを忘れることができた。そして人の世は無事泰平で今日までも続き来たっ・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・こうした場合の群集心理の色々の相が観察されて面白かった。例えば大勢の中にきっと一人くらいは「豪傑」がいて、わざと傍若無人に振舞って仲間や傍観者を笑わせたりはらはらさせるものである。 富士駅附近へ来ると極めて稀に棟瓦の一、二枚くらいこぼれ・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・これは実にたくみな群集心理の階級的な誘導である。下山氏の死が、自殺か他殺か、明らかにされない条件は、あらゆる暗示をこめて反民主的、反労働者的な疑惑に人々をひきこむために活用されている。ドイツの国会放火事件ばかりでなく、世界の人民のたたかいは・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ 一般民衆が圧抑に対する反動をもって動くときには、ともすれば群集心理的の浮ついた気分になって、芸術を受用し得るような心の落ちつきを失うものである。しかし民衆の教養は、西ヨーロッパにおいては、必ずしも上流社会の教養よりも劣っているとは限ら・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫