・・・一、二の例をいうて見ると、山水の景勝を書くのを目的としたものや、地理地形を書くことを目的としたものや、風俗習慣を書くことを目的としたものや、あるいはその地の政治経済教育の有様より物産に至るまで細かに記する事を目的としたもの、あるいは個人的に・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・けれども私たちの生活には習慣というものもあり、その習慣は、いつも進歩したものの考えかたよりはふるい。自分たちの心や感情にある習慣の一部が旧いということがわかってきたと同時に、親たち、兄たち、または夫、そういうこれまで特に女の人の生活に対して・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・しかし秀麿は寝る時必ず消して寝る習慣を持っているので、それが附いていれば、又徹夜して本を読んでいたと云うことが分かる。それで奥さんは手水に起きる度に、廊下から見て、秀麿のいる洋室の窓の隙から、火の光の漏れるのを気にしているのである。・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ここへ来ると、皆だれでも黙ってしまって問題をそらしてしまうのが習慣であるが、この黙るところに、もっとものっぴきのならぬ難題が横たわっていると見てもよかろう。 私は創作をするということは、作家の本業だとは思わない。作家の本業というのは、日・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・そのころは幕がおりてから、役者が幕外へ明晩の芸題の披露に出る習慣であったが、祖父はこの披露をしたあとでしばしば自分の身の上話やおのろけや愚痴などを見物に聞かせた。見物はそれを喜んで聞くほどに彼を愛していたのだそうだ。この祖父を初めとして一族・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫