・・・ のびにのびた髪の毛が、白い地に美事な巻毛になって居て、絹の中に真綿を入れてくくった様な耳朶の後には、あまった髪の端が飾りの様に拡がって居た。 華やかな衣の中で、長閑らしく、首を動かしたり、咲いた許りの花の様な手を、何か欲しげに袖か・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・栄さんは早々と耳朶をかゆがって居ります。七日に、本は『世界文学総論』、カーライルの『クロムウェル伝』、『日本書紀』上・中、ポアンカレの『科学者と詩人』、『国富論』上を入れます。私によくわからないので伺いますが、例えば三冊もつづく本を、一時に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 篤は千世子の濃い青味がかった白眼や髪の間から一寸のぞいて居る耳朶を見ながら誘われる様な気持にうす笑いをした。 笑いながら濃い長い髪が額へ落ちかかって来るのを平手で撫で上げ撫で上げしながら窓の外にしげる楓の若葉越しにせわしく動い・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 大変ものやわらかに、品のいいような快さを感じるとともに、年に似合わない単純さに、罪のない愛情を感じて、尨毛だらけの耳朶を眺めながら自ずと微笑まれるような心持になるのである。 禰宜様宮田は至って無口である。 どんな諷刺を云われよ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・通りよい櫛の歯とあたたかそうな湯上りの耳朶を早い春の風が掠める。……空気全体、若い、自由を愉しむ足並みで響いて居るようであった。今日は書き入れ日だ! プーウ、プカプカ、ドン、プーウ。活動写真館の音楽隊は、太鼓、クラリネットを物干しまで持ち出・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫