・・・風俗を美にせんとするには、人の智識聞見を博くし、心を脩め身を慎むの義を知らしめざるべからず。けだし我が輩の所見にて、開知・修身の道は、洋学によらざれば、他に求むべき方便を知らず。歴史を読みて、その実証を見るべし。世の士君子、もしこの順席を錯・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ この学校は中学の内にてもっとも新なるものなれば、今日の有様にて生徒の学芸いまだ上達せしにはあらざれども、その温和柔順の天稟をもって朝夕英国の教師に親炙し、その学芸を伝習し、その言行を聞見し、愚痴固陋の旧習を脱して独立自主の気風に浸潤す・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
中津留別の書 人は万物の霊なりとは、ただ耳目鼻口手足をそなえ言語・眠食するをいうにあらず。その実は、天道にしたがって徳を脩め、人の人たる知識・聞見を博くし、物に接し人に交わり、我が一身の独立をはかり、我が一家の・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・その智識聞見は、あるいは西洋流の文明に近き人あるも、徳教の一段に至り特に出色の美なきは、我輩の遺憾に堪えざる所なり。文明の士人心匠巧みにして、自家の便利のためには、時に文林儒流の磊落を学び、軽躁浮薄、法外なる不品行を犯しながら、君子は細行を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・志を遂げて富貴得々たりといえども、時に顧みて箱館の旧を思い、当時随行部下の諸士が戦没し負傷したる惨状より、爾来家に残りし父母兄弟が死者の死を悲しむと共に、自身の方向に迷うて路傍に彷徨するの事実を想像し聞見するときは、男子の鉄腸もこれが為めに・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫