・・・――アンネットが確実に彼のものとなった後、彼は、アンネットの誠実な、熱烈な純一を愛する心を無視した一つずつの肉的な抱擁が、どんなにアンネットの霊魂を傷つけるかまるで考え得なかったのであった。アンネットは、大きな、死ぬばかりの苦痛を味った。・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・の中に、青年のうちに荒れ狂う肉的なものに対する戦いを表現しようとした。青年ジイドは自身の裡に目覚める野獣的な慾望の力と揉み合いつつ、これまで自身が身につけていたと思う教育の威力や倫理や教義の無力を痛感した。彼はその責苦を手記の中に披瀝して、・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・吾人は最も下劣なる肉的執着の表現と呼ぶをはばからぬ。さらにまたかの卑猥なる言語を弄して横行する一群を見る時、吾人は一高校風の前途を危ぶまざるを得ない。校風の暗黒面にみなぎる悪思潮は門鑑制度、上草履制度の無視ではない、尊き心霊に対する肉的侮辱・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫