・・・調子はずれの胴間声で、臆することなく呶鳴り散らしていたのだが、歌い終って、「なんだ、誰も歌ってやしないじゃないか。もう一ぺん。アイン、ツワイ、ドライ!」と叫んだ時に、「おい、おい。」と背後から肩を叩かれた。振り向いて見ると、警官である。・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・羽左衛門の義経を見てやさしい色白の義経を胸に画いてみたり、阪東妻三郎が扮するところの織田信長を見て、その胴間声に圧倒され、まさに信長とはかくの如きものかと、まさか、でも、それはあり得る事かも知れない。歴史小説というものが、この頃おそろしく流・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・神の眼、ぴかと光りて御左手なるタイムウオッチ、そろそろ沈下の刻限を告げて、「ああ、また、また、五年は水の底、ふたたびお眼にかかれますかどうか。」神の胴間声、「用意!」「こいしくば、たずねきてみよ、みずの底、ああ、せめて、もう一言、あの、――・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 圭さんの胴間声は地面のなかを通って、だんだん近づいて来る。「おい、落ちたよ」「どこへ落ちたんだい」「見えないか」「見えない」「それじゃ、もう少し前へ出た」「おや、何だい、こりゃ」「草のなかに、こんなものがあ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ 胴間声「今日は、御用はありませんか トウフヤが来ました、アウーイ エー アウーイ」 外事掛 太った男 紺ベルトのついた外套「あすこでは これやって居たんですよ」 両手でピアノ弾く・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫