・・・ 後継ぎになる筈の一彰さんという人は、大兵な男であったが、十六のとき、脚気を患った後の養生に祖母はその息子を一人で熱海の湯治にやった。そこでお酌なんかにとりまかれて、それがその人の一生の踏み出しを取り誤らせることになり、廃嫡となった。大・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・長男の一彰さんという人は、予備校のどこかへ通っている十六の年、脚気になった。溺愛していた祖母、母の母が、金をもたせて熱海へ湯治にやった。明治のはじめ、官員の若様が金をもって熱海へ来たのであったから、とりまきがついてお酌をあてがった。それがは・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・シゲは全く古い職人肌の亭主をもって、脚気の乳をのまして赤ン坊に死なれたり、これまでの工場が駄目になると、只身を落した気易さだけに満足して時代おくれの小工場へ落着く。アサは自分の身の上にかかって来る同じその事情のなかで、愛子の生きかたにもシゲ・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
婦人文芸御発刊の由大慶に存じます。私は今ひどく心臓と脚気で動けないので七月一日には失礼いたしますが、心から発刊のおよろこびを申上げます。〔一九三四年九月〕 宮本百合子 「『婦人文芸』発刊について」
・・・田舎から出たばかりの清浄な肉体は、清潔であるが故に悪条件の中ではもろくて、これらの産業戦士たちが第一に犯かされるのが結核、次は脚気、つづいて視力障碍である。大抵の雇主は、健康保険三ヵ月の期間中はおいて、それが切れると、あらゆる病を故郷の土さ・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・そして、病気の筆頭は結核で、その次は脚気、視力障害がつづいている。十六歳以下の少年少女工は、あらゆる部面に働いているのだが、機械工場、化学工場などに働く少女工は三人に一人、或は二人に一人の割合で病気にかかっているのである。 東京の街をす・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
出典:青空文庫