・・・と自任していた。私は今人の筆蹟なぞに特別の興味を持ってるのではないが、数年前に知人の筆蹟を集めて屏風を作ろうと思立った時、偶然或る処で鴎外に会ったので一枚書いてくれというと、また冷かしの種にするんだろうと笑って応じてくれそうもなかった。「そ・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・当時すでに私は、かなりの小説通を以てひそかに自任していたのである。そうして、「山椒魚」に接して、私は埋もれたる無名不遇の天才を発見したと思って興奮したのである。 嘘ではないか? 太宰は、よく法螺を吹くぜ。東京の文学者たちにさえ気づかなか・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・を以て自任しなければなりません。神と共にある時期は君の生涯に、ただ此の一度であるのです。 太宰治 「心の王者」
・・・こうした独断的否定はむしろ往々にしていわゆる斯学の権威と称せられまた自任する翰林院学者に多いのである。例えばダイナモの発明に際してある大家がその不可能を論じたにかかわらず電流が遠慮なく流れ出したのは有名な話である。また若い学士が申出したある・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 我々は自ら相応に鑑賞力のある文士と自任して、常住他の作物に対して、自己の正当と信ずる評価を公けにして憚らないのみか、芸術上において相互発展進歩の余地はこれより外にないとまで考えている。けれども我々の批判はあくまでも我々一家の批判である・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 少女小説の著者の名にあこがれて、未来の文学者と自任してなま半かなものになったりその中に描かれた都会の生活の華やかさをしたって取り返しの出来ない事をする人だって必してないじゃありません。 少女小説に筆を染める人々は丁度大学の教授より・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
・・・現代の紫式部と自任し、うぬぼれ、自己陶酔して、こたつにあたったような暮しをしている。三 立候補しない。だから党的に成長しない。四 宮本百合子を評価することは他の党員作家に対して有害である。 以上の項目の若干についてある程度の訂正・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・ 自分をよい母と自任している允子が、どんなによい母だって、息子に出てゆかれてしまうのだ、という結論から、再び医者として自立する心理の過程に、私は一応の積極的な意味を認めると同時に、現代の中流家庭内におこりつつある何か深刻な親子の利害の対・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫