・・・若い女の人が経済的な事情を抜きにして、恋愛を至上的なものに考えたり、そのように行動することそれ自身は悪いことでもなんでもないけれど、現実の今日の社会の中で、そう云う空想的な人間の結び付きは結局経済的なもので打毀されたりするから、愛情のしっか・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・情報局につとめていたことは、まのあたり平野氏に、天皇制と軍国主義の至上命令の兇猛さを示しつづけただろう。そこにつとめながら、そこの仕事を批判していた消極的な自虐性は、平野氏の心理に痼疾的なぐりぐりをこしらえたかのようだ。民主的政治にも、民主・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・ 婦人作家がこの一年に比較的数多い作品を発表もしたのは一般に高まった文学性への要求と婦人作家たちの共通性である芸術至上の傾向によるものであるとされ、それは、男の作家がこの二三年の世相の推移につれ、その社会性の積極さの故に陥った混乱に対置・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・――伸子は野バンナという形容詞にはっとした、それは彼女が感じていたものだったが、ヤバンと云い切れなかったものだった、 芸術至上主義者であって、そうあり切れなかった彼、強くリアリスティックになれない彼、ロマンティシズム 美を歴史的素材 ・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・古い職人的な意味での芸術至上主義や、社会主義的リアリズムの理解を主観的な欲求に引き添えて曲解したりすることが生じたのであった。不幸にして日本では、以来これらの混乱し錯雑した文学上の理解の齟齬を、全面的に生活的に正して行く条件がプロレタリア文・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・よかれあしかれ、男の作家のもつ社会性のひろさ、敏感さ、積極性がそういう文学上の混乱を示しているのであるが、婦人作家たちの多くは、そういう危険に我とわが身、わが芸術を曝すだけの社会感覚をもたず芸術至上の境地にこもって、身辺のことを熱心に描きつ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・そのような素朴な、歴史を見ない誤った至上主義的理解からは、幸い久しい以前にぬけでているのであるが、やはり転向作家のことはプロレタリア文学の発展の上に個人的であるとともに普遍な問題を含んでいると思うのである。 実際の場合について見れば、な・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・横光利一氏など、義理人情至上性を昨今強調されるようであるが、日本固有の人情というものの中には、そういう意気地という、些かは颯爽たる分子もなくはないのである。「さび」というものが、日本芸術の一つの大きい価値とされて来ているということに対し・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・後者は純文学の芸術性の擁護、文学精神としての芸術至上の論拠に立って、批判を行っていたのである。 事情は推移して、プロレタリア文学時代は過ぎたのであったが、この文学を押し流した時代の波は、純文学を主唱した知識人の社会的ありようにも激しく荒・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ 文学の仕事、文学者の任務が、大衆の指導にあるという自覚と、そのことで大衆より経済的にも優位におかるべき筈であるという、芸術至上的な自己評価の習慣は、ブルジョア文学が実際は大衆の生活感情とのつながりを失っても猶作家の心に残像としてのこっ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫