・・・炎天、日盛の電車道には、焦げるような砂を浴びて、蟷螂の斧と言った強いのが普通だのに、これはどうしたものであろう。……はじめ、ここへ引越したてに、一、二年いた雀は、雪なんぞは驚かなかった。山を兎が飛ぶように、雪を蓑にして、吹雪を散らして翔けた・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・永遠においでおいでの、あの悪魔に、私はそろそろ食われかけていた。蟷螂の斧である。 私は二十五歳になっていた。昭和八年である。私は、このとしの三月に大学を卒業しなければならなかった。けれども私は、卒業どころか、てんで試験にさえ出ていない。・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・永遠においでおいでの、あの悪魔に、私はそろそろ食われかけていた。蟷螂の斧である。 私は二十五歳になっていた。昭和八年である。私は、このとしの三月に大学を卒業しなければならなかった。けれども私は、卒業どころか、てんで試験にさえ出ていない。・・・ 太宰治 「東京八景」
出典:青空文庫