・・・ツワイクはフーシェに個人的興味をよせすぎ、主観的な照明をあてすぎ、血の気のうすいものを書いた。バルザックが、彼の人間喜劇のところどころに隠見させているフーシェの方が、垣間見の姿ながら時代の生々しい環境のうちにあくどい存在そのままにとらえられ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・ 図書館に勤めるようになった一人の若い作家志望の女が、その一見知識的らしい職業が、内実は無味乾燥で全く機械的な資本主義社会の経営事務であることを経験し、そこの官僚的運転の中で数多い若い男女の人間が血の気を失い、精神の弾力を失ってゆくのを・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・ 〔無題〕 何となく斯うポーッとする様なお天気なんで、血の気の多い女は身内からうずかれる様な気持になった。 ムッチリした指の先や白い足袋の爪先を見ながら、ひざの上にひろげてある『桜の園』のまだ買いたての白い紙をチ・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫