・・・ようござんすか、御手紙を書いてちゃんとこの通り控えをとっておくでしょう、先方でもしこの事件を裁判沙汰にする日にはこれが証拠になって差配が乱暴を働いたという種になるのですよ。今までは女二人だと思ってずいぶん勝手な事ばかりしたのですが、今じゃ男・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・「たとえ、お前が裁判所に持ち出したって、こっちは一億円の資本を擁する大会社だ。それに、裁判はこちらの都合で、五年でも十年でも引っ張れる。その間、お前はどうして食う。裁判費用をどこから出す。ヘッヘッヘッ」と、吉武有と云う、鋳込まれたキャプスタ・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・結局政府に限りて人民の私に行うべからざる政は、裁判の政なり、兵馬の政なり、和戦の政なり、租税の政なり、この他わずかに数カ条にすぎず。 されば人民たる者が一国にいて公に行うべき事の箇条は、政府の政に比して幾倍なるを知るべからず。外国商売の・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・軍律の裁判には、法学士なかるべからず。患者のためには、医学士なかるべからず。行軍の時に、輜重・兵粮の事あり。平時にも、もとより会計簿記の事あり。その事務、千緒万端、いずれも皆、戦隊外の庶務にして、その大切なるは戦務の大切なるに異ならず、庶務・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ここには裁判の方のお方もお出でになるのだ。首をシュッポオンと切ってしまう位、実にわけないはなしだ。」 あまがえるはみなすきとおってまっ青になってしまいました。それはその筈です。一人九百貫の石なんて、人間でさえ出来るもんじゃありません。と・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ さて署長さんは縛られて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 いよいよ巨きな曲った刀で、首を落されるとき、署長さんは笑って云いました。「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・ 東京裁判のラジオをきいている私たちの心の苦痛はいかばかりであろう。私たちは、世界の女性に向って叫びたいとおもわないだろうか。私たち日本人がすべてこういう兇暴な本性をもっているとはおもわないでください! と。日本にあふれている寡婦の涙を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 二 アメリカ大統領選挙の結果が発表され、トルーマンの当選が知らされたと時をおなじくして、東京の市ヶ谷では、極東軍事裁判の最終段階の法廷が再開された。トルーマンが政策として、平和のための強国間の協力、アメリ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・は公事の巻で、裁判の話を集録しているが、文章はに似ている。は将来軍記で、これもに似ている。とをに合併すれば、大体は四つの部分になる。『甲陽軍鑑』がこれらの部分において語っていることは、非常に多種多様であるが、しかしそれを貫いて一つの道徳・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・だから原敬を暗殺した中岡良一が死刑に処せられないときまったとき、父は驚喜して当時の裁判長を名判官とたたえた。かくのごとく父は、私利をはかって超個人的道義的任務を忘れたものをすべて腐敗せるものとして憎悪する。自己の身命を超個人的道義的任務に捧・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫