・・・治修はこの二人を召し、神妙の至りと云う褒美を与えた。それから「どうじゃ、痛むか?」と尋ねた。すると一人は「難有い仕合せ、幸い傷は痛みませぬ」と答えた。が、三右衛門は苦にがしそうに、「かほどの傷も痛まなければ、活きているとは申されませぬ」と答・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・……そうだもう一ついうことを忘れていたが、死ぬ番にあたった奴は、その褒美としてともちゃんを奥さんにすることができるんだ。このだいじな条件をいうのを忘れていた。おいともちゃん……ドモ又、もう描くのをやめろよ……ともちゃん、おまえ頼むから俺たち・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・貴方、私に御褒美を下さいまし。」「その、その、その事だよ……実は。」「いいえ、ほかのものは要りません。ただ一品。」「ただ一品。」「貴方の小指を切って下さい。」「…………」「澄に、小指を下さいまし。」 少からず不良・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・はい、麻畑と謂ってやりゃ、即座に捕まえられて、吾も、はあ、夜の目も合わさねえで、お前様を見張るにも及ばずかい、御褒美も貰えるだ。けンどもが、何も旦那様あ、訴人をしろという、いいつけはしなさらねえだから、吾知らねえで、押通しやさ。そンかわりに・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・得たりとばかり膝を進めて取り出し示す草案の写しを、手に持ちながら舌は軽く、三好さん、これですが、しかしこれには褒美がつきますぜ。 善平は一も二もなく、心は半ば草案に奪われて、はいはい、それはもう何なりとも。 ほかではありませぬ。とに・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・隊長は犯人を検挙するために、褒美を十円やることを云い渡してあった。密偵は十円に釣られて、犬のように犯人を嗅ぎまわった。そして、十円を貰って嬉しがっている。憲兵は、松本にそういう話を笑いながらしたそうだ。「じや、あの朝鮮人かもしれん。今さ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・「どれ、そう温順しくしておばあさんの側に遊んでいてくれると、御褒美を一つ出さずば成るまいテ」 と言いながらおげんは菓子を取出して来て、それを三吉に分け、そこへ顔を見せたお新の前へも持って行った。「へえ、姉さんにも御褒美」 こ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・此頃もネ、弓の弦を褒美に貰って来ましたがネ、相撲の方の名が可笑しいんですよ。何だって聞きましたら――岡の鹿」 トボケて学士は舌を出して見せた。高瀬も子供のように笑出した。「兄のやつも名前が有るんですよ。貴様は何とつけたと聞きましたら・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・序に、私も一つ御褒美を出しますから、それも拾って行って下さい。」と言いながら青い斑の入った小さな羽を高い枝の上から落してよこしました。 二人の兄弟は榎木の実ばかりでなく、橿鳥の美しい羽を拾い、おまけにその大きな榎木の下で、「丁度好い時」・・・ 島崎藤村 「二人の兄弟」
・・・あれはこの動物にとっては全く飼主の曲馬師から褒美の鮮魚一尾を貰うための労役に過ぎないであろうが、娯楽のために入場券を買ってはいった観客の眼には立派な一つの球技として観賞されるであろう。不思議なのはこの動物にそういう芸を仕込まれ得る素質がどう・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
出典:青空文庫