・・・お君にそれを知らさなかった金助も金助だが、お君もまたお君で、「そんなもん私には要用おまへん」 と、大西主人の申出を断り、その後、家柄のことなど忘れてしまった。利子の期限云々とむろん慾にかかって執拗にすすめられたが、お君は、ただ気の毒・・・ 織田作之助 「雨」
・・・では、取急ぎ要用のみ。前略、後略のまま。大森書房内、高折茂。太宰学兄。」「僕はこの頃緑雨の本をよんでいます。この間うちは文部省出版の明治天皇御集をよんでいました。僕は日本民族の中で一ばん血統の純粋な作品を一度よみたく存じとりあえず歴代の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・近来電気の応用が盛んになるにつれて色々の事に炭を使う、白熱電灯の細い線も炭、アーク灯の中の光る棒も炭である、電話機の受話口の中の最も要用なものは炭でこしらえた丸薬のようなものである。 白炭 小枝に石灰を塗って焼いた・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・これはその主要の点を正しく記憶しておらぬ証拠で、かかる弊を防ぐようにするには、抜き書きをして、その要用の点だけを充分記憶しておくようにするのが肝心である。結局、根本の事項さえよくのみ込んでいればそれに連れた枝葉の点などはさほど労せずとも、自・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・無偏・無党の帝室は、帝国の全面を照らして、そのいずれに厚からず、またいずれに薄からず、帝室より降臨すれば、政治の社会も学問の社会も、宗旨も道徳も技芸も農商も、一切万事、要用ならざるものなし。いやしくもこれらの事項について抜群の人物あれば、す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 明治十九の歳華すでに改まりて、慶応義塾の教育法は大いに改まるに非ずといえども、一陽来復とともにこの旧教育法に新鮮の生気をあたうるはまたおのずから要用なるべし。その生気とは何ぞや。本塾の実学をしてますます実ならしめ、細大洩らさず、すべて・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ ゆえに、子女の養育に注意する人は、そのようやく長ずるにしたがって次第に世間の人事にあたらしむるの要用なるを知り、あるいは飲酒といい演劇といい、謹慎着実なる父母の目には面白からぬ事ながら、とうていこれを禁ずべきに非ざれば、この好むところ・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ すなわち政治固有の性質にして、その働の急劇なるは事実の要用においてまぬかるべからざるものなり。その細目にいたりては、一年農作の飢饉にあえば、これを救うの術を施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばた・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・して、我輩が通俗の意味に用うる道徳は、これを修めんとして修むべからず、これを破らんとして破るべからず、徳もなく不徳もなき有様なれども、後にここに配偶を生じ、男女二人相伴うて同居するに至り、始めて道徳の要用を見出したり。その相伴うや、相共に親・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫