・・・青年たちが騒ぎ合いながら堂母の蔭に隠れるのを見届けると、フランシスはいまいましげに笏を地に投げつけ、マントと晴着とをずたずたに破りすてた。 次の瞬間にクララは錠のおりた堂母の入口に身を投げかけて、犬のようにまろびながら、悔恨の涙にむせび・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・街道を突っ切って韮、辣薤、葱畑を、さっさっと、化けものを見届けるのじゃ、静かにということで、婆が出て来ました納戸口から入って、中土間へ忍んで、指さされるなりに、板戸の節穴から覗きますとな、――何と、六枚折の屏風の裡に、枕を並べて、と申すのが・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 無我夢中に呶鳴っていた寺田は、ハマザクラがついに逃げ切ってゴールインしたのを見届けるといきなり万歳と振り向き、単だ、単だ、大穴だ、大穴だと絶叫しながら、ジャンパーの肩に抱きついて、ポロポロ涙を流していた。まるで女のように離れなかった。・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ 男が川の中へ落ちてしまったのを見届けると、豹吉は不気味な笑いを笑った。 しかし、さすがに顔色は青ざめていた。 ふとあたりを見廻した。 誰も見ていた者はない。午前六時だ。人影も殆んどなかった。 豹吉は固い姿勢で歩き・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・祖母さんに、どんな事が有ッても其様な真似は私はしない、私のやれる丈けやって妹と弟の行末を見届けるから心配して下さるなと言切って其時あんまり口惜かったから泣きましたのよ。それからね寧のこと針仕事の方が宜いかと思って暫時局を欠勤んでやって見たの・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・それで課長殿が窓際へ行って信号の出処を見届けようとしても、光束が眼を外れると鏡は見えなくなり、眼に当れば眩惑されるので、もしも相手が身体を物蔭に隠して頭と手先だけ出してでもいればなかなか容易に正体を見届けることは困難であろうと想像される。そ・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ せいぜい体を大切になさって、『達さん』の成功するのを見届ける様になさらなければつまりませんものねえ。 いろいろな事は皆その時の運次第なんですから。 云う方も、云われる方も、ひやっこい何となし不安が犇々と身に迫る様に感じて居・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 次いで、マリーナ・イワーノヴナ、最後にジェルテルスキーの長い脚が、左右、左右、階段の上に隠れるのを見届けると、下の小さい娘は自分達の部屋へかけ込み、息を殺して、「お婆ちゃん、三人、異人さん」と報告した。 ・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫