・・・近時諸種の訳書に比較して見よ。如何に其漢文に老けたる歟が分るではない乎。而して其著「理学鈎玄」は先生が哲学上の用語に就て非常の苦心を費したもので「革命前仏蘭西二世紀事」は其記事文の尤も精采あるものである。而して先生は殊に記事文を重んじた。先・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・これらへはまず翻訳書を教え、地理・歴史・窮理学・脩心学・経済学・法律学等を知らしむべし。 いわゆる洋学校は人を導くべき人才を育する場所なれば、もっぱら洋書を研究し、難字をも読み、難文をも翻訳して、後進の便利を達すべきなり。方今の有様・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・科業は、いろは五十韻より用文章等の手習、九々の数、加減乗除、比例等の算術にいたり、句読は、府県名・国尽・翻訳の地理・窮理書・経済書の初歩等を授け、あるいは訳書の不足する所はしばらく漢書をもって補い、習字・算術・句読・暗誦、おのおの等を分ち、・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・花咲き溢るる女らしさの全幅をもって経済的にも精神的にも生き貫いて行くことを欲している。訳書の前がきの言葉にある通り「女子が活溌な生産的労働や仕事にたずさわって」所謂「貴女達を包む弱々しい女性らしさとは全く別性質の」美しい自他ともに幸福な「独・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
日本の知識人の読書表には、実に翻訳がどっさり入りこんでいると思う。文学書にしても、日本ぐらい月々幾冊もの訳書が出版されているところは余り無かろうと思う。アメリカなどは、どっちかと云えば翻訳書が比較的どっさり出る方だろう。新・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・そして更に時の首相陶庵公が序文を附したゾラの一訳書が、西園寺内閣の内務大臣によって発禁されたこともあった」 当時「文芸委員会」の委員であった諸氏の内には、もとより混り気のない心持で、日本の美風良俗をいかがわしい自然主義の傾向から守ろうと・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・この二つの本が出ると、外の訳書の初や終に書き添えてある位の事は、その中に備わっていると云っても好かろう。そうして見れば、訳本その物には別に煩わしい書添をしなくても好くはあるまいか。 そんなら翻訳の凡例はどうかと云うに、私は実際凡例として・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫