・・・各国家民族が自己を越えて一つの世界を構成すると云うことは、ウィルソン国際連盟に於ての如く、単に各民族を平等に、その独立を認めるという如き所謂民族自決主義ではない。そういう世界は、十八世紀的な抽象的世界理念に過ぎない。かかる理念によって現実の・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・自分でもする事の本当の動機を知らずにいることもございますし、またその動機がたいてい分かりそうになって来ていても、それを自分で認めるだけの勇気が無いこともございます。そう云うわけですから、わたくし達の手紙はやはりわたくし達の霊をありのままに現・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・にも同じ失敗を認める。大づかみに、ぐんと人生を掴まず視点が揺れ、作家としての心が弱すぎた。為に、あれ丈文化的価値を裏に持った素材が、明かにこなされ切れなかった。 時に、彼の精神の或面に、私が、物足りなさによる侮蔑に近いものを感じたのは争・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・社会生活におけるそのことの必然を認めることさえ罪悪とした軍部の圧力は、若い精神に、この苛烈な運命に面して自分としてのすべてに拘泥することをいさぎよしとせず、それをみにくいことと思わせるほどに成功していた。だから一九四五年以後にこれらの若い精・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・露伴の如きが、その作者の一人であるということも、また後人が認めるであろう。予はこれを明言すると同時に、予が恰もこの時に逢うて、此の如き人に交ることを得た幸福を喜ぶことを明言することを辞せない。また前に挙げた紅葉等の諸家と俳諧での子規との如き・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・それを覗いて見ると、信仰はしないまでも、宗教の必要だけは認めるようになる。そこで穏健な思想家が出来る。ドイツにはこう云う立脚地を有している人の数がなかなか多い。ドイツの強みが神学に基づいていると云うのは、ここにある。秀麿はこう云う意味で、ハ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 此の一大事実を認めた以上は、われわれはいかに優れたコンミニストと雖も、資本主義と云う社会を、敵にこそすれ、敵としたるがごとくしかく有力な社会機構だと云うことをも認めるであろう。 しかしながら、此の資本主義機構は、崩壊しつつ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・そこで今一言の必要を認めるが、ここで用いられた主観なるものの意味である。主観とはその物自体なる客体を認識する活動能力をさして云う。認識とは悟性と感性との綜合体なるは勿論であるが、その客体を認識する認識能力を構成した悟性と感性が、物自体へ躍り・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・そして自分の人間と作物との内に多分の醜い affectation を認める。私はこれまで何ゆえにそれに気がつかなかったかを自分ながら不思議に、また腹立たしく思う。affectation が何であるか、それがどういう悪い根から生いでて来るか、・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・あるいは社会の改造に活路を認めるか。――それらはおのおの一つの道である。がこの場合、美の陶酔に自己の安んずる場所を認めるとすれば、それは右の諸種の道と異なった一つの特殊な道である。ここでは美への関心が善への関心の上に置かれる。そうしてあの苦・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫