・・・ ○ 談話がゆくりなく目に見る花よりも口にする団子の方に転じた。東京の都人が食後に果物を食うことを覚え初めたのも、銀座の繁華と時を同じくしている。これは洋食の料理から、おのずと日本食の膳にも移って来たものであろ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ところが短かい談話で、国民文学記者にコンラッドだけを詳しく話す余地がなかったので、ついと日高君の誤解を招くに至ったのは残念である。 要するに日高君の御説ははなはだごもっともなのである。けれども余のコンラッドを非難した意味、及びこの意味に・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・それがある事情のため断然英国を後にして単身日本へ来る気になられたので、余らの教授を受ける頃は、まだ日本化しない純然たる蘇国語を使って講義やら説明やら談話やらを見境なく遣られた。それがため同級生は悉く辟易の体で、ただ烟に捲かれるのを生徒の分と・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・こうした人々の談話の中には、農民一流の頑迷さが主張づけられていた。否でも応でも、彼らは自己の迷信的恐怖と実在性とを、私に強制しようとするのであった。だが私は、別のちがった興味でもって、人々の話を面白く傾聴していた。日本の諸国にあるこの種の部・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・先日来のようにお前さんが泣いてばかりいちゃア、談話は出来ないし、実に困りきッていたんだ。これで私もやっと安心した。実にありがたい」 吉里は口にこそ最後の返辞をしたが、心にはまだ諦めかねた風で、深く考えている。 西宮は注ぎおきの猪口を・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・幼少の時より国字の手習、文章手紙の稽古は勿論、其外一切の教育法を文明日進の方針に仕向けて、物理、地理、歴史等の大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語学をも勉強して、一通りは内外の時勢に通じ、学者の談話を聞ても其意味を解し、自から談話して・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・しかしこの記者の目的は美人に非ず、酒に非ず、談話に非ず、ただ一意大食にある事は甚だ余の賛成を表する所である。 この紀行が『二六新報』に出た時には三種の紀行が同時に同新報の上に載せられた。その内で世間の評判を聞くと血達磨の九州旅行が最も受・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・座談会はロイヤル長官の談話そのほかいくつかのトピックで進められているが「切迫せる人口問題」のくだりで、鈴木文史朗氏はいっている。一年に百万ずつもふえている日本の人口問題の解決法がゆきづまっている。「理想的なやりかたは、ひと思いに何千万を殺す・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・此頃は談話の校正をさせて貰う約束をしても、ほとんど全くその約束が履行せられないことになって来ました。話には順序や語気があって、それで意味が変って来ます。先ず此頃談話して公にせられるものは、多くは本人の考とは違うものだと承知していた方が確なよ・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・ 二人とも何やら浮かぬ顔色で今までの談話が途切れたような体であッたが、しばらくして老女はきッと思いついた体で傍の匕首を手に取り上げ、「忍藻、和女の物思いも道理じゃが……この母とていとう心にはかかるが……さりとて、こやそのように、忍藻・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫