・・・そんなことを遠い夢のように考えて、諏訪湖の先まで乗って行くうちに、汽車の中で日が暮れた。 おげんは養子の兄に助けられながら、その翌日久し振で東京に近い空を望んだ。新宿から品川行に乗換えて、あの停車場で降りてからも弟達の居るところまでは、・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ 雨がやんで、夫は逃げるようにそそくさと出かけ、それから三日後に、あの諏訪湖心中の記事が新聞に小さく出ました。 それから、諏訪の宿から出した夫の手紙も私は、受取りました。「自分がこの女の人と死ぬのは、恋のためではない。自分は、ジ・・・ 太宰治 「おさん」
・・・暗くなっていて、やがて南側に、湖が、――むかしの鏡のように白々と冷くひろがり、たったいま結氷から解けたみたいで、鈍く光って肌寒く、岸のすすきの叢も枯れたままに黒く立って動かず、荒涼悲惨の風景であった。諏訪湖である。去年の秋に来たときは、も少・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・田中阿歌麿氏著、「諏訪湖の研究」上編七一六ページにこれに関する記事と、写真がある。数年前の「ローマ字世界」にも田丸先生が、この池のものについておかきになったのが出ている。先生がたのお手伝いをして、例の小船で調べて回ったこともあったが、とにか・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・また終わりに諏訪湖の神渡りの音響の事を引き、孕のジャンは「何か微妙な地の震動に関したことではあるまいか」と述べておられる。 私は幼時近所の老人からたびたびこれと同様な話を聞かされた。そしてもし記憶の誤りでなければ、このジャンの音響ととも・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
出典:青空文庫