・・・ ここでわれわれは俳諧という言葉の起原に関する古人の論議を思い起こす。誹諧また俳諧は滑稽諧謔の意味だと言われていても、その滑稽が何物であるかがなかなかわかりにくい。古今集の誹諧哥が何ゆえに誹諧であるか、誹諧の連歌が正常の連歌とどう違うか・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・普通選挙だの労働問題だの、いわゆる時事に関する論議は、田舎訛がないとどうも釣合がわるい。垢抜けのした東京の言葉じゃ内閣弾劾の演説も出来まいじゃないか。」「そうとも。演説ばかりじゃない。文学も同じことだな。気分だの気持だのと何処の国の託だ・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・わが知る限りにおいては、またわが了解し得たる限りにおいては(了解し得ざる論議は暫く措必ずしも非難すべき点ばかりはない。けれども自然主義もまた一つのイズムである。人生上芸術上、ともに一種の因果によって、西洋に発展した歴史の断面を、輪廓にして舶・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・ マルクスに依ると、風力が誰に属すべきであるか、という問題が、昔どこかの国で、学者たちに依って真面目に論議されたそうだ。私は、光線は誰に属すべきものかという問題の方が、監獄にあっては、現在でも適切な命題と考える。 小さな葉、可愛らし・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・倫理道徳の書にして尊信の一大要義を欠くときは、たとえこれを教うるも、いたずらに論議批評の媒介となりて、学生中においても、ひそかに是非喋々の言を聞くことあるべし。 ここにおいてか、これを教うる者は、もとより少年学生輩の是非論を許すべきに非・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・このことを、当時性関係の面で論議をかもされつつも強い勢力をもって一部に実行されていたコロンタイズム類似の行動と照らしあわせて今日の目で見ると、その頃の運動の歴史がもっていた小市民的な制約性の性質がまざまざとわかり、深い教訓を我々に語るもので・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・彼の周囲には、ぐちをいいいいプカプカたかいタバコをすっている男たちがおり、彼のひらく雑誌は、抽象的論議だらけの旧型綜合雑誌なのでしょう。そして、最もおどろくべきことは、政治の面で、内閣のからやくそくとすっぽかしに対して、わたしたちの抗議がど・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・『近代文学』のグループといえば、ブルジョア民主主義の限界内で、個人主義的な主体性の確立の論議にとらわれていたようだけれども、去年の夏からファシズム反対の積極的な活動体となってきています。少くともこんにちのまじめな文化人は、一九三〇年代の終り・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・という論文は当時やかましく論議されたものである。わたしという一人の作家にふれる場合、見のがすことのできない母斑のようにあつかわれても来ている。民主主義文学運動がはじまってから蔵原惟人、小林多喜二、宮本顕治にふれて、当時の検事局的に歪曲された・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 参議院の法務委員会と裁判所との間に、浦和充子の事件について、見解の相異があり、法務委員会の権限について論議されている。こういう問題も、わたしたちは、人民の基本的人権の擁護とブルジョア的な法律適用による裁判が果して公正なものであるかどう・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
出典:青空文庫