・・・ ザーッ、ザッと鋪道を洗い、屋根にしぶいて沛然と豪雨になった。「ふーゥ、たすかった!」「これでいい。いい塩梅だ!」「これだけ降っちゃデモれないからな」 彼等は、上野の山で解散したデモのくずれが、各所で狼火のような分散デモ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ きのうきょうは秋口らしい豪雨が降りつづいた。廊下の端に、降りこめられた蜘蛛が、巣もはらずにひっそりしている。その蜘蛛は藁しべに引かかったテントウ虫のように、胴ばかり赤と黒との縞模様だ。〔一九二五年十月〕・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・夜、青山の通を吉田、福岡両氏をたずね、多く屋根の落ちかかった家を見る。ひどい人通りで、街中 九日 英男、荷物を持って自転車で来る。夜豪雨。ヒナン民の心持を思い同情禁じ得ず。 A、浅草、藤沢をたずぬ、A、浅草にゆく。さいの弟の・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・見ると豪雨に煙ってむこうの山はちっとも見えなくなった。海が近いところらしい大胆な雨に頭のしんまで洗われるようなよろこびを感じた。よろこびは、○の鼓動を活溌にした。そして、敗戦によって日本が新しく自らの建設をうけとったという事実を感じ直した。・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
・・・ 種々の点から、今東京に居遺る大多数は希望を持った熱心に励まされて働いているが、昨夜のように大風が吹き豪雨でもあると、私はつい近くの、明治神宮外苑のバラックにいる人々のことを思わずにいられなくなる。あれ程の男女の失業者はどうなるか。その・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫