・・・軽い負債でも背負わされたような気がしてあまり愉快でなかった。一体これはどうすれば善かったのだろう。代価を強いて取らせて破片だけを持って帰るのもあまりにぎごちない窮屈な気がする。二個分の代価を払って、破片と、そうして破れないもう一つをさげて来・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・私は親類や知人の誰彼が避暑先からよこした絵葉書などを見る度に、なんだか子供等にまだなんらかの負債をしているような心持を打消す事が出来なかった。 ある夕方一同が涼み台と縁側に集まっていろんな話をしている間に、去年みんなである夜銀座へ行って・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ 債務者が負債を払わないで色々な口実を設けて始末のわるい場合がある。そういう場合に債権者は債務者の不意を襲うてその身辺に円を画く。すると後者はその債務を果たすまでその円以外に踏み出す事が出来ない。もし出れば死刑に処せられる。 こうい・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・これだけの負債を弁済する事が生涯に出来るかどうか疑わしい。しかし幸か不幸か債権者の大部分はもうどこにいるか分らない。一巻の絵巻物が出て来たのを繙いて見て行く。始めの方はもうぼろぼろに朽ちているが、それでもところどころに比較的鮮明な部分はある・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・借りたものは巴里だって返す習慣なのだから、いかな見え坊の細君もここに至って翻然節を折って、台所へ自身出張して、飯も焚いたり、水仕事もしたり、霜焼をこしらえたり、馬鈴薯を食ったりして、何年かの後ようやく負債だけは皆済したが、同時に下女から発達・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・たった三年の間に、十二万フランの負債をしょったバルザックは、遂に力つきて、美しい出版物を紙屑のような価で投げ売りにした。その時を計画的に準備し、待っていた同業者共は、労さず数万の利益を得たのである。 この恐るべき三年間を始りとして、バル・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・もし愛国婦人会や矯風会が本当にそういう事を防止するために一般婦人の力を糾合するのであるなら、それらの婦人に先ず第一、小作制度の本質をつきとめさせ、農民の負うている負債の性質について実際を理解させなければならないのであろう。そのような根本的な・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・曾て日本の農村は一戸当り数百円の借金を持っているということが統計に言われて、農民の負債はいつも大きい社会問題になって来ていた。ところが最近数年の間には、全く逆の状態が現われた。つい先達てまで日本の農民は平均一戸当り一万円近い現金を保有してい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫