・・・左手につづく国立物品販売所の正面には、イルミネーションで、万国の労働者団結せよ!と、書き出されている。 広場の土は数十万の勤労者の足に踏みしだかれ、ポコポコになって、昼間の熱気を含んでいる。ところどころに急設された水飲場・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・美しい郵電省の先に、少年図書販売店がある。入って見ると、ある、ある! 色彩も美しい五ヵ年計画の絵解きから、十月革命の相当のむずかしい歴史に至るまで小学校の学年順に並べた棚が出来ている。 モスクワを留守にしたのはたった一ヵ月未満だった。そ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 出版危機という表現で出版界の再編成、より大きくつよい企業へのふるいわけがはじまってから、雑誌は、大部分、編集の上にそれぞれ販売面からのもがきを示した。テラス、ロマンス類が、もとの軍情報部に働いていた人をやとい入れて、戦時秘史だの反・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・ 一つは、電気器具販売店、一つは、仏蘭西香水の売店。 どちらも一階の往来に面した処にあった。真鍮の太い手摺にぴったりよって立ち、私は、ぼんやり空想の世界に溶け込む。 ああ、あの高貴そうな金唐草の頸長瓶に湛えられている、とろりとし・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・婦人労働者たちは、デモに着て出る服の手入れでもして、四月三十日になると、モスクワ全市の食糧品販売店では、火酒、ブドー酒、ビール、すべてアルコールの入った飲物を一斉に――売り出すのか? そうじゃない、反対だ。絶対にアルコール飲料は売らなくなる・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・一九二八年頃、おもだった売場にある案内所が切符一枚について十五カペイキか二十カペイキの手数料をとって切符のとりつぎ販売をしていたことがある。この頃それはない。 ――割引なしか? ――なしだ。だから、行った当座は高いのに閉口して、舞台・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・アメリカは安い商品を如何に多く市場へ販売するかという資本家の慾に発足した商品の大量生産であるが、ソヴェトは目下非常に購買力の高くなったプロレタリアに如何に早く多くの購買力を充たすかという点から起って来る大量生産だ。まだ経済的に余裕がないし、・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・さもなければ淫蕩文学の作家となって性のブルジョア的販売に陥った。特に封建性のつよい日本において或る時期ブルジョア・インテリゲンツィアの婦人作家が、色恋を描かず、男の美を作品の中に描き得ないのは、まことに当然である。 性的アドーレーション・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・ 全波機は、二百円より五百円迄で製作販売されると云われたけれども、わたしが相談するどの専門家も、それで出来るとは保証してくれない。大体十倍の価格がいわれる。その上、日本の今日の技術では、全波に切り替えて行くスウィッチの製作が未熟であって・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・ 自分は夕方、紙切れを握って塩漬キャベジの匂いのする食糧販売店の減った石段をトン、トン、トンと下りて行った。 紙切れを見ては、あやしい発音でイクラを買った。漬胡瓜を買った。 ハムを買った。 黒田君の買って来た樅の木は小ぢんま・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
出典:青空文庫