・・・そこで、病気だと云って内地米ばかりを配給して貰う者が出てくる──一度や二度はその病気の看板もきくがそうたび/\は通らない。そこで医者の診断書を取ってくる。これなどまだ小心で正直な方だが口先のうまい奴は、これまでの取りつけの米屋に従来儲けさし・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・其方に手を執って世話を仕て貰うと清書なども能く出来るような気が仕た。お蝶さんという方は後に關先生の家の方になられた。其頃習うたものは、「いろは」を終って次が「上大人丘一巳」というものであったと覚えて居る。 弱い体は其頃でも丈夫にならなか・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・――円るい型にハメ込んだ番号の打ってある飯をワッパに、味噌汁を二杯に限って茶碗に、それから土瓶にお湯を貰う。味噌汁の表面には、時々煮込こまれて死んだウジに似た白い虫が浮いていた。 八時に「排水」と「給水」がある。新しい水を貰って、使った・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・七「他人のものを当にしちゃアいかん、他人のものを当にして物を貰うという心が一体賤しいじゃアないか」内儀「賤しいたって貴方、お米を買うことが出来ませんよ、今日も米櫃を払って、お粥にして上げましたので」七「それは/\苦々しいことで」・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・その汗を流して手に入れたものを、ただで他に上げるということは出来ない。貰う方の人から言っても、ただ物を貰うという法はなかろう。」 こう言い乍ら、自分は十銭銀貨一つ取出して、それを男の前に置いて、「僕の家ばかりじゃない、何処の家へ行っ・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・物を貰うたびに、婆あさんはきっと何か面白げな事をいう。そうすると物を遣った人も声を出して笑うのである。婆あさんは老人が家の前に立ち留まって、どうしようかとためらっているのを見て云った。「這入って行って御覧よ。ここいらには好い人達が住まっ・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・お前さんの好きな作者の小説もお前さんが読んではなんにもならないのだが、わたしが読めばあの人に可哀がって貰う種を目付ける種本になるのだわ。幾らお前さんのお父っさんがエスキルといったって、エスキルという名を付ける坊主はお前さんには出来ないわ。な・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・そこで未決檻に入れられてから、女房は監獄長や、判事や、警察医や僧侶に、繰り返して、切に頼み込んで、これまで夫としていた男に衝き合せずに置いて貰う事にした。そればかりでは無い。その男の面会に来ぬようにして貰った。それから色色な秘密らしい口供を・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・あとで一しょに勘定して貰うから。」 襟は丁寧に包んで、紐でしっかり縛ってある。おれはそれを提げて、来合せた電車に乗って、二分間ほどすると下りた。「旦那。お忘れ物が。」車掌があとからこう云った。 おれは聞えない振りをして、ずんずん・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・あれはこの動物にとっては全く飼主の曲馬師から褒美の鮮魚一尾を貰うための労役に過ぎないであろうが、娯楽のために入場券を買ってはいった観客の眼には立派な一つの球技として観賞されるであろう。不思議なのはこの動物にそういう芸を仕込まれ得る素質がどう・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
出典:青空文庫