・・・その又包みを抱いた霜焼けの手の中には、三等の赤切符が大事そうにしっかり握られていた。私はこの小娘の下品な顔だちを好まなかった。それから彼女の服装が不潔なのもやはり不快だった。最後にその二等と三等との区別さえも弁えない愚鈍な心が腹立たしかった・・・ 芥川竜之介 「蜜柑」
・・・人間は皆赤切符だ。B 人間は皆赤切符! やっぱり話せるな。おれが飯屋へ飛び込んで空樽に腰掛けるのもそれだ。A 何だい、うまい物うまい物って言うから何を食うのかと思ったら、一膳飯屋へ行くのか。B 上は精養軒の洋食から下は一膳飯、牛・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・の物語に題は通えど、これは東の銭なしが、一年思いたつよしして、参宮を志し、霞とともに立出でて、いそじあまりを三河国、そのから衣、ささおりの、安弁当の鰯の名に、紫はありながら、杜若には似もつかぬ、三等の赤切符。さればお紺の婀娜も見ず、弥次郎兵・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
出典:青空文庫