・・・ 海陸風の原因が以上のとおりであるから、この風は昼間日照が強く、夜間空が晴れて地面からの輻射が妨げられない時に最もよく発達する。これに反して曇天では、輻射の関係で上記の原因が充分に発達しない、のみならずそれが低気圧などの近づいた場合だと・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・ニュートンの微粒子説は倒れたが、これに代るべき微粒子輻射は近代に生れ出た。破天荒と考えられる素量説のごときも二十世紀の特産物ではないようである。エピナスの古い考えはケルビン、タムソンの原子説を産んだ。デカルトの荒唐な仮説は渦動分子説の因をな・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・械的のエネルギーとの関係が疑われてから以来、初めはフラスコの水を根気よく振っていると少し温まるといったような実験から、進んで熱の器械的当量が数量的に設定されるまで、それからまた同じように電気も、光熱の輻射も化合の熱も、電子や陽子やあらゆるも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ こんな事を考えていたのであるが、今年の夏房州の千倉へ行って、海岸の強い輻射のエネルギーに充たされた空間の中を縫うて来る涼風に接したときに、暑さと涼しさとは互いに排他的な感覚ではなくて共存的な感覚であることに始めて気が付いたのである。暑・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・プランクはさらにこれを無限な光束の集団に拡張して有名な輻射の方則を得たのは第二の進歩であった。すなわち系の複雑さが完全に複雑になれば統計という事が成り立ち、公算というものが数量的に確定したものになる。そして系の変化はその状態の公算の大なるほ・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ブンゼン燈のバリバリと音を立てて吹き付ける焔の輻射をワイシャツの胸に受けながらフラスコの口から滴下する綺麗な宝石のような油滴を眺めているのは少しも暑いものではなかった。 夕方井戸水を汲んで頭を冷やして全身の汗を拭うと藤棚の下に初嵐の起る・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ たとえば、これもやはり私の洗面台の問題の一つであるが、前夜にたてた風呂の蒸気が室にこもっているところへ、夜間外気が冷えるのと戸外への輻射とのために、窓のガラスに一面に水滴を凝結させる。冬の酷寒には水滴の代わりに美しい羽毛状の氷の結晶模・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・拙劣な譬喩をかりて言えば外国のいろいろな詩形から放散する「輻射線」の刺激もあるであろうし、マルキシズムの注入によって周囲の媒質の「酸度」に変更を生じたためもあろうし、また一般文化の進歩のために思想の内容が豊富複雑になったために一種の「滲透圧・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ところでたとえば鈴木清太郎博士の実験で、円板の中心を衝撃する際に生ずる輻射形の割れ目が衝動の強さに応じて整数的に増加して行く現象のごとき、おそらくある方程式の固有値によって定まるであろうということは、かつて妹沢博士も私に指摘されたことである・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・熱の輻射も無線電信の電波も一つの連続系の部分になってしまって光という言葉の無意味なために今では輻射線という言葉に蹴落とされてしまったのである。 今日のように非人間的に徹底したように見える物理学でもまだ徹底しない分子を捜せばいくらでも残っ・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
出典:青空文庫