・・・ もう一人立ちができるようになって、ちびは親戚の内へもらわれて行った。迎いの爺やが連れに来た時に、子供らは子猫を三毛のそばへ連れて行って、別れでも惜しませるつもりで口々に何か言っていたが、こればかりはなんの事とも理解されようはずはなかっ・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・ふもとのほうから迎いに来た自動車の前面のガラス窓に降灰がまばらな絣模様を描いていた。 山をおりる途中で出会った土方らの中には目にはいった灰を片手でこすりながら歩いているのもあった。荷車を引いた馬が異常に低く首をたれて歩いているように見え・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・H氏が迎いに来ていていきなり握手をした。それが西洋くさい事には最も縁の遠い地味なH氏であるだけに、妙な心持ちがしたが、これから自分らが入るべき新しい変わった生活の最初の経験として無意味な事とは思われなかった。ドロシケを雇ってシェーネベルヒの・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・新橋駅(今の汐留へ迎いに行ったら、汽車からおりた先生がお嬢さんのあごに手をやって仰向かせて、じっと見つめていたが、やがて手をはなして不思議な微笑をされたことを思い出す。 帰朝当座の先生は矢来町の奥さんの実家中根氏邸に仮寓していた。自分の・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・、「だびら雪」と「摩耶の高根に雲」、「迎いせわしき」と「風呂」、「すさまじき女」と「夕月夜岡の萱根の御廟」、等々々についてもそれぞれ同様な夢の推移径路に関すると同様の試験的分析を施すことは容易である。 こういうふうの意味でのアタヴィズム・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・正月に初夢の宝船を売る声は既に聞かれなくなったが、中元には猶お迎いお迎いの声を聞く。近年麻布辺の門巷には、春秋を問わず宿雨の霽れる折を窺って、「竿竹や竿竹」と呼んで物干竿を売りに来るものがある。幾日となく降りつづいた雨のふと霽れて、青空の面・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・ 書肆改造社の主人山本さんが自動車で僕を迎いに来て、一緒に博文館へ行ってお辞儀をしてくれと言ったのは、弁護士がお民をつれて僕の家を出て行ってから半時間とは過ぎぬ時分であった。山本さんは僕と一緒に博文館へ行って、ぺこぺこ御辞儀をしたら、或・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・お父さんが迎いにきたんだ。」 カムパネルラは、なぜかそう云いながら、少し顔いろが青ざめて、どこか苦しいというふうでした。するとジョバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるというような、おかしな気持ちがしてだまってしまいました。・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「王様のご命でお迎いに参りました。さあご一緒に私のマントへおつかまり下さい。もうすぐお宮へお連れ申します。王様はどう云う訳かさっきからひどくお悦びでございます。それから、蠍。お前は今まで憎まれ者だったな。さあこの薬を王様から下すったんだ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・きっとじきお迎いをよこすにちがいありません。そんなにお泣きなさらなくてもいいでしょう。私は急ぎますからこれで失礼いたします。」と云いながらクラリオネットのようなすすり泣きの声をあとに、急いでそこを立ち去りました。 さてそれから十五分でネ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫