・・・「一、山男紫紺を売りて酒を買い候事、山男、西根山にて紫紺の根を掘り取り、夕景に至りて、ひそかに御城下(盛岡へ立ち出で候上、材木町生薬商人近江屋源八に一俵二十五文にて売り候。それより山男、酒屋半之助方へ参り、五合入程の瓢箪を差出し、こ・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・ 阿部の屋敷の裏門に向うことになった高見権右衛門はもと和田氏で、近江国和田に住んだ和田但馬守の裔である。初め蒲生賢秀にしたがっていたが、和田庄五郎の代に細川家に仕えた。庄五郎は岐阜、関原の戦いに功のあったものである。忠利の兄与一郎忠・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・この男は近江国浅井郡の産で、少い時に江戸に出て、諸家に仲間奉公をしているうちに、丁度亀蔵と一しょに酒井家の表小使をして、三右衛門には世話になったこともあるので、若しお役に立つようなら、幸今は酒井家から暇を取っているから、敵の見識人として附い・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・この伯母の主人は近江の国に寺を持っている住職で、一人息子もまた別に寺を持っていた。伯母は家の中の拭き掃除をするとき、お茶や生花の師匠のくせに一糸も纏わぬ裸体でよく掃除をした。ある時弟子の家の者が歳暮の餅を持ってがらりと玄関の戸を開けて這入っ・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫